立ち読みコーナー
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甘い失速
シャドウ・ハンター
暗闇のハーキュリーズ
 一体彼は、今まで何人の男を抱いて来たのだろうか……冬木が知っているだけでも、両手の指では足りないくらいなのだ。じっと待っていた末の僥倖だから、多くは望まない、好きなときに来て抱いてくださいなどと言うとんでもないやつまでいる。
 それでも「一番可愛いのはおまえだ、他はグリコのおまけ。いや、それ以下だな」などと深く響きのいいバリトンの声で言われるともう、詰る気持もどこへやら、ただの性奴になってしまう冬木だった。
「悪かったな……からかって。おまえがやつのこと……信じてくれたのが嬉しかったのさ。あの男なら、その気になれば人殺しくらいわけはない。しかしまれに見る自制心の持ち主なんだ。そういうやつだからこそ、絶対にやってないと思ったんだ、誰かをかばっているんじゃないかってな。もっともやつは、口が裂けても言わんだろうがね」
 風巻は言って、自分の肩に顔を預けたまま拗ねたように身を固くしている冬木を抱きしめた。華奢な顎を掴み、仰向かせた顔の半ば開いて震えている唇を罪滅ぼしみたいなディープ・キスで覆ってやる。
 ちょっと抗いの仕草を見せるのにも構わず舌をぐいぐいと差し入れると、冬木の滑らかな肌に熱が戻って来て、風巻の指に握られたものまで勢いを増しているのがわかる。
 もう眠ろうと思っていたのだが、気が変わった。このまま終わらせる手はない、もったいないというものだ……おずおずと舌を絡ませて来る愛らしい表情を目の隅にしながら、風巻は起き上がった。


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