立ち読みコーナー
目次
194ページ
黒獅子と契約 ~官能を喰らえ~   7
あとがき              190
92ページ~
「ン、なに……考えてる?」
 両手で、わしゃわしゃと黒い髪を掻き乱す。
 気を抜いた時や逆に理性が利かないほど昂った際、心身共に満足して眠る時にも、たまに本来の姿……黒いライオンに変わる昊獅の髪は、立派なタテガミの手触りと似ている。
 アンバーブラウンの瞳を覗き込んで尋ねた惣兵に、目を細めて言い返してきた。
「特に、なにということは。惣兵が、相変わらず美味いってことくらいか」
「……うそつき」
 昊獅の瞳は、膝に乗り上がって向かい合っている惣兵を見ているようでいながら……素通りしている。
 身体の内側に昊獅の熱を受け入れて、これ以上なく密着しているのに、どこか遠い。
 おれを見ろ。おれだけ、見ろ。
 そんな、焦燥感にも似た苛立ちが込み上げてくる。焦りのまま、昊獅の頭を両手で抱え込むようにして唇を重ね合わせた。
 触れ合わせた舌も、身体の奥で脈打つ昊獅の屹立も……すべてが熱い。
 自分たちが身体を重ねるための大義名分である、『呪』の消化という理由はないのに……離れられない。
 昊獅の強い瞳に、食い入るように見据えられると……ゾクゾクと悪寒に似たものが背筋を這い上がった。
「も、っと……ぁ、足りね……ッ」
 熱量が、足りない。もっと、昊獅の熱をぶつけられたい。
 自分は、それらをすべて受け止められるはずだ。
「それほど餓えていたのか。気づかなくてすまんかったな」
「ッ、謝るより、動け……って」
 手足を絡みつかせて、全身で昊獅の熱い身体にしがみつき……快楽に溺れさせろと、懇願する。
 なにも考えたくない。淫らな熱に翻弄され、濁流に沈められれば……頭を空っぽにできるはずだ。
「ッ、惣兵……そんなに食いつくな」
「足りね……ンだよっ」
 身体の奥に受け入れた昊獅の屹立を、意図して締めつける。精悍な眉を顰めた昊獅に、物足りないと訴えて背中に爪を立てた。
「無茶したら、あとで痛いとか文句を零すだろう」
 急いた気分で「もっと」と繰り返す惣兵の背中を撫でる手は、まだどこかに余裕を漂わせていて……もどかしい。
 今度は肩に噛みつくと、
「いい、から。今は、どうでも、い……い」
「おまえはよくても、俺が八つ当たりされるんだがなぁ。……ったく、仕方ねぇ」
 ガジガジと齧りついて、分厚い肩や首筋に歯型をつける惣兵に根負けしたのか、惣兵の身体を両腕に抱き直した昊獅がため息をついた。
「泣いてもいいぞ。涙も……舐めさせろ」
 惣兵の顔を覗き込むようにして視線を絡ませた昊獅が、目を細めてどこか淫猥な微笑を浮かべる。
 望みが叶えられる……という予感に肌がざわつき、昊獅の髪を両手で掻き乱した。
「だれ、が。泣く……ッ!」
 言い返そうとした言葉が、中途半端に途切れる。
 大きく身体を揺すり上げられて、グッと喉を反らした。
 決して軽いとは言えない惣兵の身体を、昊獅は難なく翻弄する。痛いほどの力で腰骨を掴まれ、逃げられないようにしておいて激しく下から突き上げられると、全身が痺れるような強烈な快感が走り抜ける。
「ふ……、惣兵、おまえはやはり美味いな。この身も……放つ気も、極上だ」
 昊獅の熱っぽい吐息が首筋を撫で、薄く目を開く。
 艶を帯びて潤む瞳に、惣兵が映っている。
 今は……惣兵だけを、見ている。
「本気で、喰われそ……だな」
「喰われたいか?」
 唇のあいだから、厚みのある舌が覗く。牙……いや、普通の人間より少し鋭い犬歯が肌に突き立てられるのは、甘美な痛みだ。
 それも、いいか……。
 そう、チラリと頭に過ったけれど、背を屈めた惣兵は昊獅の舌先を軽く舐めて「いいや」と否定した。
「まだ、肉体で得る欲に未練がある……から、な」
 惣兵の言葉に、昊獅は無言で笑みを深くする。
 大きな手が下腹部に伸ばされて、惣兵の屹立を緩く包み込んだ。
「ぁ、あ……っん」
 長い指をやんわりと絡みつかされただけで、ビクビクと身体を震わせて更なる心地よさに酔う。
 武骨な印象なのに、触れる手つきは優しい。
 気持ちいい……。
「おまえは欲深い。だから、俺も……求められる」
 惣兵の喉に吸いつきながら、昊獅が低く告げてくる。
 その声と台詞に安堵して、昊獅の髪を掴む手に力を込めた。
「も……っと、寄越せ……」
「ッ、く……惣兵」
 息を吞んだ昊獅に、甘くかすれた声で名前を呼ばれたことに満足して、熱い吐息を漏らす。