立ち読みコーナー
目次
218ページ
感じないオスの美味しい召し上がり方     7
感じやすいオスの正しい可愛がり方      175
インキュバスとの美味しい日々のつづけ方   193
あてがき                  211
44ページ~
「え?」
「治療はキスから始めるって教えただろう?治療をしてほしいなら、ほら」
アダムは目を閉じたまま言い、俺のキスをじっと待ち構える。
 なんでこうなるんだ……。自分からするなんて余計緊張してしまう。
 これなら昨日おとなしくされておけば……いや、俺はしろって言った。なのに、アダムがしなかったのだ。
「アダムからしろよ。おまえが治すほうなんだから」
「どうした?役者なんだから、キスシーンだと思えばなんてことないだろう?」
「簡単に言うな。演じるなら演じるで、役作りってものがあるんだ。全然脈絡がないと難しい」
「面倒臭いやつだな」
 アダムは笑っている。
 俺だって、キスくらいチュッとやっちゃえばいいと思う。ただ唇と唇がくっつくだけだ。
 なんで、できないんだろう?べつに初めてじゃないし、それこそ役でやったこともあるのに……。
 考え込んでいると、アダムが俺の名を呼んだ。
「……なんだよ」
 どうせバカにされるんだろうと警戒する俺に、彼は意外な言葉を投げかけてくる。
「おまえ、キスを大事にしてるんだな」
 物言いも表情もやけに柔らかかった。からかわれるものだとばかり思っていたから、ポカンとしてしまう。
 でも、キスを大事にしているというのは当たっているかもしれない。
「……まあ、経験も少ないしね」
「理想はあるのか?こういうキスがしたいとか」
「あっても、アダムには教えない」
 実は、ある。付き合ってすぐにするんじゃなくて、たとえば一ヶ月目の記念日に静かな夜の海でこっそりキスをするとか……。できれば月が綺麗だったらいい。俺にとってもカノジョにとっても思い出に残るようなものにしたい。
 改めて考えるとロマンティストだったんだな、俺。恥ずかしくなってきた……。
「おまえ、百面相してる自覚あるか?」
「なっ……。見るなよ」
「見るだろう。おまえは俺にとって患者なんだから。つくづく面倒臭いな」
「アダムがそうさせてるんだよ」
 出会った瞬間から彼のペースに振り回されている。突拍子もない言葉やマイペースさについていけず、気持ちがずっと忙しい。
「面倒臭いっていうのは俺にとっては褒め言葉だ。俺は好きだよ、おまえのそういうところ」
「は!?」
「好きだって言ってるんだ。複雑なほうが人間らしくて面白いからな」
「……ああ、そう」
 好きだなんてしれっと言われたらびっくりする。突然照れくさい気持ちにさせられて意味なく視線をうろつかせてしまう。
 本当に台風の目みたいな男だ。
「わかった。キスする」
 俺の言葉にアダムが目をぱちくりさせる。
「どうした?急に」
「なんかこのむずがゆさに耐えられなくて」
 それにうだうだしていても時間の無駄だ。
 治療するには、キスするしかない。
 まなじりを決した俺を、アダムは興味深げに見つめてきた。
「やっぱり面白いな。わかった。来いよ」
 待ち構えるアダムは俺より十センチくらい背が高いし、屈んでくれるわけでもない。背伸びするはめになる。
「本当に意地悪だな」
「否定はしない」
「目、瞑って」
「はいはい」
 勢いで行くぞ。顔を斜めにして、三、二、一。俺はアダムの唇に自分の唇を押しつけた。すると、すぐに彼の舌が押し入ってくる。拒む暇がなかった。
「ふ……うっ、んん……」