立ち読みコーナー
目次
274ページ
獣人王のお手つきが身ごもりまして    7
獣人王にお子様が生まれまして      247
あとがき                273
42ページ~
「あの……」
 ごくり、と喉を鳴らした。
 これは陛下の遊び。お妃ごっこ。
 きっと舞踏会に出たくない理由があったんだ。だから目の前にいた僕を捕まえただけ。
だったら、とずるい考えが頭を過ぎる。
 このまま……恋もわからないまま条件の合った相手と心のない結婚をするくらいなら、一夜の夢を見ても許されるかもしれない。
 最初から断わるなんて選択肢は僕に与えられていない。従僕風情が他国の王族に逆らえるはずはない。それを理由にしてしまえば、このまま陛下と夢を見られる。
 だめだとわかっていても、心が揺らぐ。
 最初に姿絵を見てからずっと頭から離れなかった。
 自分の絵を手に入れてからは毎晩のように眺めていた。
 それだけで幸せだと思ったのに、目の前に現れて触れて信じられない言葉を並べられて……嘘でもいいなんて思ってしまう。
「逃がさぬ」
 その言葉に泣きそうになる。
 本当にそうだったらいいのに。

 なんて立派な扉なんだろう。
 それがゆっくりと開いて、豪華な内装が姿を現す。
 深い緑を基調とした壁紙には細かな模様。天井には蝋燭の光を反射してキラキラ光るガラス製のシャンデリア。暖炉を飾るのは……きっと本物の金細工だろう。くるりと弧を描く技法は謁見の間でも見たことのある細工だ。
 さすがにデルバイアの国王を招く部屋だけのことはある。奥にある椅子も、あんな細そうな足なのに大柄な陛下が座っても折れたりしないんだろうな。
 うわ……絨毯、ふかふかだ。これの上に土足って、それだけで寿命が縮まりそう。
「ロイ」
 沈み込んでいきそうなソファの上に座らされて居心地が悪い。
 ついでに国王陛下は自分では座らずに床に片膝をつき、僕の手を握りしめてるこの状況。
 まさしく求愛の体勢と言わざるをえないこれを、どうしたらいいものかわからない。
「私の……」
 大きな手が唇をなぞっていくから、全身がぶるりと震えた。
 確かに僕は女顔だし、男に口説かれた経験がないわけじゃないけどこれはなんというか……。肉食獣に狙いをつけられたみたいに動けない。
 ああ、狼だっだ。この人は肉食獣じゃないか。
「ロイ」
 大きな手が、頬に伸びる。
 逃げられないように後頭部を押さえられて、その意図に気づかないわけではなかったけど避けられなかった。
 せめてもの抵抗に唇をぎゅっと結んだが……重なると同時にぬるりとしたものが閉じた先に行こうとついてくる。
「ん……」
 これは開かないとダメなんだろうか。
 圧倒的に経験不足の僕にはどうしていいかわからない。
「ロイ」
 うっすら笑みを浮かべた国王陛下は開かない唇になにを思ったか、僕の顔にたくさんのキスを降らせていく。
 目尻に頬に唇の端に。
 するりと布が床に落ちたから目で追うと、それは僕が着ていた上着によく似ていた。
 ……似ていたじゃない。僕のだ。今日の服は儀礼的な意味が強いもので、わりと複雑な作りだと思っていたけれど。
「あの……んっ」
 声をかけようとして、やられた。
 開いた口に、今度こそ国王陛下の舌が入り込む。
「んんっ、んぅ」
 後頭部を押さえる力が強くなり、より深く重なる唇に頭が真っ白になった。