立ち読みコーナー
目次
274ページ
白銀のオオカミと森のお医者さん   7
浮気者               257
あとがき              270
「……不思議ですね」
「何がだ?」
「だって、動物の姿なのにこうして話せるんですよ?牙狼さんは動物の姿になれない僕のほうが不思議だって言ってたけど、やっぱり僕にとっては牙狼さんたちが、神秘的な存在に思えてならないです」
 牙狼は小さく笑った。
「牙狼さんたち、か?」
「え?」
「俺は他の連中と一緒か?少しは特別に思ってくれてると自負してたんだがな」
「そ……それは……」
 岡村は言葉に詰まった。牙狼たちはと言ったが、実際は違う。牙狼には、他のどの獣人にも感じない特別な感情を抱いているからだ。
 畏怖のような、憧れのような、言葉では上手く言い表せないもので、複雑な感情はいつも岡村を戸惑わせる。けれどもそれは、決して嫌なものではなかった。
「なぁ、先生。俺がこんなところまで一緒に来たのはどうしてだと思う?」
「どうしてって……」
「言っただろうが。子作りしようって」
「だ、だから男同士で子供はできません」
 また冗談を……、と思うが、獣の姿でじっと見つめられて心臓が跳ねた。まるで矢で心臓を射貫かれたような衝撃だ。
「あほう。本気でガキが欲しくて言ってんじゃねぇよ。先生と交尾したいって言ってるんだよ」
 真面目に告白され、どう答えていいかわからなくなった。
「まさか、俺がただの優しい男だと思ったか?親切心でついてきてくれるって?世間知らずもいいとこだ」
 次々と浴びせられる質問に、追いつめられていく。
 本気でそう思っていた。牙狼は、親切だから自分につき合ってくれていると……。
 けれども、牙狼が違うと言う。
「あの……」
 見下ろされ、息ができなくなった。
 今はオオカミの姿だ。けれども、表情がわかる気がするのだ。琥珀色の瞳に見つめられていると、胸がドキドキしてくる。なんて美しい瞳だろう。心奪われるとは、このことだ。
「先生。温泉で他の男たちに色目使う先生を見て、嫉妬したんだぞ」
「だ、だからあれは……っ」
 色目なんて言い方をされ、ますます恥ずかしくなった。男好きの淫乱だと責められている気分になるのだ。そして、なぜか責められることに、心臓が高鳴っている。
「俺はこんなに先生を好きだってのに、俺だけじゃ満足できねぇか?」
 濡れた鼻先を首筋に擦りつけられ、その冷たさに躰がビクンと跳ねた。
「ぁ……っ」
 大きな舌で首を舐められ、ゾクゾクと甘い戦慄が背中を駆け上がっていく。
 身を起こした牙狼は、こうして見ると危険な獣だった。鋭い爪で一掻きされただけで、岡村の肌などいとも簡単に引き裂いてしまえる。
 身の危険を感じながらも、どこかそれに惹かれずにはいられない自分を見つけた岡村は、自分がこの危険に飛び込みたいと思っていることにさして驚かなかった。
 とっくに気づいていた気持ちなのかもしれない。
「傷つけたりしねぇよ」
「……あの……、ぁ……っ、……はぁ……」
 前脚で引っかくように、服をくつろげられる。この姿で続けるのかと牙狼を見て、そのつもりだとわかった。これでは『獣姦』ではないかと自問し、禁忌を犯すことに対する罪の意識に躰は自ら発火する。
 厳密には相手は獣人だが、姿はオオカミそのものだ。
「……牙狼さ、……待……っ」
「待てるか。今を逃したら、他の奴に持ってかれちまう」