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恋と主と花嫁修業 7
あとがき 235
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目を開けると、いつもと違う天井だった。
横を見ると、巴さんが眠っていた。
ここは……、客間か。
意識を失った俺を、彼が運んでくれたのか。布団の中から手を出すと、ちゃんとパジャマを着ている。
袖が長いし、見たことのない柄だったから、きっと巴さんのだろう。わざわざ着替えさせてくれたのだ。
さっきは少し意地悪だったけど、やはり最後は優しい人だ。
窓へ目をやると、カーテンの隙間から明るい外の光を投げかけている。
まだ弱い光だが、夜は明けたようだ。
夕飯、食べ損ねてしまったな。
でも、黒砂との再会があった。
「巴さん」
この喜びを早く伝えたくて、俺は隣に寝ている巴さんの身体を揺すった。
もう朝なのだから、起こしてもいいだろう。
「巴さん、起きてください」
もう一度名前を呼ぶと、彼は小さくうめいて目を擦った。
「起きたのかい?」
「起きました。聞いてください、大変なことが起きたんです」
「何が大変なんだ…い……」
微笑みながらこちらを向いた巴さんの顔が固まる。
まだ何も話してないのに、どうしてそんな顔をするんだろう。
「今、夢を見たんです。黒砂に会えたんです。今度、ちゃんと普通の猫として生まれ変わるって言ってました」
喜びながら報告する俺の顔を、彼は強ばった表情のまま見つめていた。
「ただの夢じゃないですよ。本当に黒砂だったんです」
「あ……、ああ、そうだろうな。また何かあると言ってたのか?」
「何かって?」
「猿が復活したとか、また戦うとか」
「いやだなぁ、そんなことあるわけないじゃないですか。黒砂、転生できるんだそうです。普通の猫になって、生まれてくるんですよ」
巴さんは、起き上がり、ベッドの上に座った。
視線が辺りを探したが、目的のものを見つけられなかったのか、俺に視線を戻した。
「群真くん、それ……、気づいてないのか?」
「それ?」
「頭」
「頭?」
「触ってごらん、自分の頭」
何だろう?
寝癖でもついてるんだろうか?
彼の目線を追って手を頭にやると、ふにゃっとしたものに触れた。
「え……?」
触っているのに触られてる感覚。
この触感には覚えがある。
まさか……。
俺は自分のお尻に手をやった。
さっき、巴さんが『ここに尻尾があった』と言った場所に。
「どうして!」
パジャマのズボンの中に差し込んだ手は、黒い毛皮の紐を掴んでいた。
いや、尻尾だ。
あの夏の日、俺をパニックにさせた、猫の尻尾。
ということは、頭の感触は……猫耳?
「何で? どうして?」