立ち読みコーナー
目次
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恋と主と猫と俺  ……7
あとがき     ……251
「頭が痛いとか、魚が食べたいとか、ある?」
「…いいえ? 別に何とも」
「本当に?」
「夢は見ました。猫と喋る」
「夢…」
 彼はため息をついた。
「夢ですよ。特に異変はないですし、やっぱり何にも起きなかったんですよ。これで俺は嫁じゃないってことでいいですよね?」
「君は花嫁だよ」
「夢を見たからですか? でもあんなの…」
「どんな夢を見たかは知らないが、君はもう他の人には会えない」
「会えないって」
 巴さんは疲れきった様子で立ち上がり、手鏡を持って戻って来た。
「私も、こうまでされたら信じるしかないようだ」
「何?」
「覗いてごらん。頭の上を」
「頭の上?」
 鏡を受け取り、自分の顔を映す。
 前髪がちょっと乱れているが、特に変わった様子もない、見慣れた自分の顔だ。
 だが、鏡を上に向けた途端俺は大声を上げてしまった。
「何だこれ!」
 そこには、コスプレのような猫耳が映っていたからだ。
「巴さん、悪ふざけしないでくださいっ!」
 こんな状況の時に、こんなことするなんて。
「してないよ…」
「してないって、現にこの耳が…」
 言いながら自分の頭を触った。
 パーティーグッズ等で売られている猫耳はカチューシャに猫の耳が付いているものだ。頭に触れればすぐに取れるはずだ。
 はずだったのに…。
 頭に、カチューシャらしい手応えはなかった。
「…え?」
 慌てて鏡を置き、両手で触れる。
 頭に、柔らかいヒレみたいな感触があった。
 毛が生えてて、三角形で、温かくて…。
「にゃ〜っ!」
 マジ猫耳! リアル猫耳!
「群真くん!」
 パニックを起こした俺に、彼は何とかしようと手を伸ばしたが、触れていいのかどうかわからないというようにオロオロする。
「何だこれ!」
「落ち着いて!」
 もう一度鏡を拾い、じっくりと眺める。
 やっぱり、紛うことなく猫耳だ。
 髪を掻き分けて生え際を見ると、頭から生えている。
「嘘…」
 俺は気が遠くなった。