立ち読みコーナー
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金蘭之契〜皇子と王子に愛されて〜  ……7
あとがき              ……239
「……っ!」
 火韻はその場に硬直した。
 部屋を占領した巨大な寝台の上で、体をつなげ、激しくもつれ合っている二人がいる。
 あぐらをかいた大柄な男が、ほっそりした人影を膝に乗せて、揺さぶっているようだ。最初は女かと思ったが、体がこちらを向いているので胸が平らなのがわかった。後ろ手に縛られているのか、腕の向きが不自然だ。細い首が折れそうなほどのけぞっているので、顎しか見えず、顔はわからない。
 慌てて目を逸らしかけたけれど、すぐ気がついた。
(皇太子……!!)
 あぐらをかき、自分に向かって挑発的な笑みを浮かべる男は、藍堂だ。
(ってことは……まさ、か……?)
 心に浮かんだ疑念は、恐怖に近い。声を出すなと注意されていたが、出したくとも出ない。舌が上顎にくっつき、口の中はからからだ。
 藍堂が口元を歪めて笑い、膝に乗せて揺さぶっていた青年の髪をつかみ、火韻の方を向かせた。
 青年は布で目隠しをされていた。けれど、頬から顎の線や、まっすぐな鼻筋は見える。背格好もわかる。見覚えがある。だが、認めたくない。
(嘘、だ)
 琉思の、薄くて形の整った唇は、いつも優しく微笑んでいるのだ。だらしなく唾液をこぼしたりしない。
「あっ、ぁうっ……ん! はぁあ、ぅ……!!」
 声を荒らげることさえめったにない琉思が、あんなに淫らに喘ぐはずはない。乱れた髪が肌に張りつくほど、汗まみれになるわけがない。
(違う。違……あんなの、琉思のはずは……)
 藍堂はこちらにニヤニヤ笑いを向けながら、青年の髪を離し、股間へ手を伸ばした。立ち上がった肉茎をつかまえ、先端に爪を立てる。
 青年が再びのけぞった。
「ひぁっ! やっ、やめ……!!」
「やめ? 何を言おうとした。やめてほしいのか? いやなのか、嬉しいのか、どっちだ」
 藍堂が問いかけると、狂ったように身悶えていた青年が、びくっと身を震わせる。荒い息の合間に、声を絞り出した。
「う、嬉し、ぃ、ですっ……どうか……どうか、お続け、くださ、い……っ。やめない、で……皇太子に、選んでいただけ、て、光栄……」
 うわずって、とぎれとぎれだったけれど、この声を聞き間違えるわけがない。ずっと自分のそばにいてくれた、優しい守り役の声はいつどこであっても聞き分けられる。今まではただ、認めたくなかっただけだ。
 皇太子に嬲られているのは――琉思だ。