立ち読みコーナー
目次
256ページ
40男と美貌の幹部………7
キスの代わりに…………125
あとがき…………………252


 篠宮が目を伏せて、すり……と宗一郎の肩に頬を寄せた。そうやって、子供が甘える仕草で篠宮が肩にもたれてくるから、宗一郎はこの上もなくうろたえる。
 困ったのは、自分が篠宮を突き放せないことだ。男同士で勘弁してくださいよ、と冗談交じりで笑って押し返すことができない。それどころか、いつになく疲れた様子で宗一郎の肩に寄りかかり、一時の安息を得るように目を閉じている篠宮を見ていると。
 恐ろしいことに。
 しっかりと抱き寄せて胸の中で寝かせつけてしまいたくなった。
(そ…………それは――――!)
 一瞬浮かんだ選択肢に、さすがにまずいと宗一郎は意志の力を振り絞って篠宮の肩を押し返そうとする。が、それより先に篠宮は、身軽に体を起こしてしまった。
 そして、宗一郎を見上げるなり一言。
「口説くなら、こういうふうにやりなさい」
 極上の笑みをつけて言われてしまった。
 またからかわれたのか、と、宗一郎は一気に脱力した。いや、篠宮のことだからこれも、社員に色気をつけさせるための実践を伴ったアドバイスだったのかもしれない。
 それにしたって恐ろしい効果だった。
 普段は無尽蔵のスタミナで仕事をこなしているような上司がほろりと弱い表情を見せたりするものだから、一瞬本気で正常な思考が固まってしまった。
「さて、そろそろ帰ろうか」
 宗一郎が、一瞬だが確かに自分の中に生まれてしまった感情に困惑していると、その横で篠宮が軽やかに立ち上がった。
 己の思考に沈みかけていた宗一郎は、うっかり立ち上がるタイミングを見失って篠宮を呆然と見上げる。
 いつまでも立ち上がろうとしない宗一郎を見下ろすと、篠宮は少し困った顔で手招きした。
「帰ろう。これ以上君と一緒にいると、一人の部屋に帰りたくなくなってしまう」
 どこまで本気で言っているのかわからない言葉。それなのに、暗がりの中でひらりと動いたその指先を、掴んで引き寄せたくなってしまう自分に宗一郎は戸惑う。
 或いはこれも、口説きのテクニックを伝授されているだけに過ぎないのだろうか?