立ち読みコーナー
目次
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傷だらけの天使ども
台風、再び
 あとがき
 竜崎はオリーヴが完全に寝入っているのを横目で確認し、謙二朗の頬にそっと手を伸ばした。すると、黙って睨み返してくる。
 緊張しているのがわかり、精一杯の虚勢に愛しさが込み上げてきた。
「これが終わったら、覚悟しとけよ」
「……ああ、終わったらな」
「いいのか? そんなこと言って」
「いつまでも、俺が世間知らずのお子様だなんて思う……、……」
 顔を近づけると謙二朗は言葉を切った。そしてゆっくりと唇を軽く重ねる。逃げようと思えば逃げられる状況だというのにそうしないことが、自分を受け入れている証(あかし)だと言われているようだった。
 唇を離すと、謙二朗は閉じていた瞼(まぶた)をゆっくりと開けた。
「何?」
 少し不機嫌そうにしているのは、いつもの照れ隠し。
 もう一回……、と竜崎はその躰を優しく引き寄せ、両手で顔を包み込むようにして再び唇を重ねた。今度は強く、そして濃厚に。
 足元がおぼつかないようだが、そんなことはお構いなしだった。
「ん……」
 小さく声を漏らすのを聞きながら、口づけを交わす。一方的ではなく、謙二朗も竜崎に応えるようにおずおずと舌を差し出してくるのがたまらない。こんなに素直にされると男は調子に乗ってしまう。
 たかがキスで天にも昇る気持ちを味わえるなんて、自分はなんて単純で幸せな男だろうと思いながらゆっくりと躰を離す。

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