立ち読みコーナー
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GROW 〜火照り〜
grow together
あとがき
 キスされている。

 それに気づくのに、呆れるほど時間がかかった。それ以前にもっとすごいこともされてしまっているというのに、ジンの手に嬲られたこと以上に、口づけは衝撃的だったのだ。
 乱暴さはないのに、強引な口づけ。
 ジンの吸っていた煙草の匂いと、いつも彼が身につけているフレグランスの香りとが混じり合って、ジン独特の匂いを、作り出している。
 それが、まるで麻酔のように、多岐川の思考を麻痺させる。気づけば身体からはすっかり力が抜け落ちて、ジンの背にすがっていた。
「名前、なんていうんだ?」
「……志信《しのぶ》」
 そんな問いにも、なぜかアッサリ口を割ってしまっていた。
 多岐川はいつも、自分名義のカードで支払っている。よくよく考えれば、ジンにはファーストネームまで知られているはずなのに、そんな細かいところにまで考えが及ばない。
 しかし、問われてそれに返しただけとはいえ、自ら下の名を教えそれを呼ぶことを許したことが、無意識のうちに、ジンとほかの男たちとは違うのだと、多岐川に認識させたらしかった。
 結果、多岐川は、ジンの腕にすべてを委ね、されるがままだった口づけにも、応えてしまう。
 ――どうして、俺は……。
 なぜ自分は、こんなことをされて、おとなしくしているのだろうか。田山のときは殴りかかったというのに。
 襲われかけた恐怖心が抜けていないのか……だから、見知った存在であるジンに頼りたくなってしまったのか……。