立ち読みコーナー
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優しくて棘(とげ)がある
 あとがき
「今日からオレがおまえのご主人様だ。これまでとは勝手が違うけど、ずっと仲良くやっていこうね」
「…………」
 梁は茫(ぼう)然(ぜん)自失状態だった。
 仲良くやっていく……っていうくだりには大いに賛成だ。
 けれど、昨日まで身分の違いなど関係なしに仲良くやってきた千裕が、いきなり主になるなんて心の準備ができていない。
 もちろん桔平には物心ついたときから、繰り返し今日という日のことをいわれ続けてきた。でも年を追うに連れ、こうした慣わしに疑問を抱くようになり、自分は絶対父のようにはならないと心に決めていたのだ。
 千裕だってそういう考えだと、ずっと信じてきた。なのに……
「わかってると思うけど、おまえはオレのいうとおりにしなきゃいけないんだよ。命令には絶対服従だ。いいね」
「そんな! これまでどおりでいいじゃないか。千裕にとっても不都合はないだろ?」
 眉をぴくりと動かし不愉快そうな顔つきで、
「おまえ……、いやなの? オレに仕えるのが気にくわないのか?」
「あ……」
 きつめの口調で咎(とが)めるようにいわれると、こっちが悪いことをしている気分になってしまい、反論すらできず俯(うつむ)いて。
「とにかく、代々受け継がれてきた風習なんだ。オレ達の代で勝手な真似はできないからさ、甘えたこといってないでさっさと覚悟を決めろよ。いいな」
 ガツンと頭を押さえつけられてしまった。こういう風にいい切られたら、梁の立場では状況を覆せない。
 ──まずいよ、この展開……

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