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トピックス
2012年01月19日

【ダウンロード書籍】オリジナル電子書籍『ポチ拾いました』のふじみまうす先生よりSSを頂戴しました!

ニュースです!
1月より好評配信中のオリジナル電子書籍第2弾

『ポチ拾いました』
ふじみまうす・著/なえ*淡路・イラスト

によせて、著者のふじみ先生からSSを頂戴しちゃいました!
ありがとうございまっす!
本編後日談です、どぞ〜♪



【ポチ拾いました SS】

 水月が二乃島と一緒に住むようになってから、じきの休日。
 二乃島と近くの大型店に買い物に来ていた水月は、ふと、足を止めた。
 たくさんの客に紛れて、前から近づいてくる男。その顔に見覚えがあるような気がした。
「……っ」
 かつて水月を捨てた、一人目の男。
 水月はとっさに二乃島の袖をつかんで引っ張っていた。
「どうかしま……」
「いいから、ポチこっちっ」
 戸惑う二乃島をぐいぐい引っ張って、服売り場の試着室の陰に隠れた。
 別に今さら顔を合わせたところでどうってことはない。お互い無視して終わり。
 ただ、そんなどうでもいい男に大事なポチを見られ、値踏みでもされたらと思うと不快だったのだ。
 そんなふうに先回りして用意周到に隠れたものの。
 よく見ると人違いだった。
「……」
 これが一人なら、なぁんだとほっとすればいいところなのだが、問題はポチである。
 何事かと周囲に目を配り、水月の後ろで非友好的なオーラを出して周りを牽制している。一度水月の男関係で迷惑をかけているので、警戒するのも無理はないのだが。
 ……なんて説明したらいいんだ、この間抜けな状況。
「水月さん、今どういう状況なのでしょうか」
「……ごめんポチ。人違いだった。なんでもない。大丈夫だから」
 だけど今さらそんな言葉で二乃島がごまかされるはずもなく、長身をかがめ、ずいっと真剣な顔を近づけてくる。
「誰かつきまとわれるような相手がいるのですか。トラブルに巻き込まれているのなら」
「いや、違う違う! ちょっと元彼と見間違えて、出くわしたくないなーって思っただけ!」
 恥ずかしさをこらえて白状すると、二乃島はわずかに顔をしかめた。
「あの男と似たようなのがいたのですか」
「あ、違う。別の元彼」
 見間違いだったのだからどの元彼だろうがどうでもいいのに、思わず言ってしまう。
「ああ……確か元上司だったとかいう」
「あー、その人でもない」
「……水月さん、何人元彼がいるんです?」
 具合が悪く会話が転がり、そんなことを聞かれるに至る。
 つき合い始めなのにこの微妙な話題。
 ここで暗くしてはいけないと、水月は努めて明るく言った。
「何人って、さすがに今言った三人で終わりだよ。だから恋人はポチで四人目」
「四人目……」
「うん」
「……そう、ですか」
 それ以上は突っ込まれなかったものの、二乃島はしばらくおとなしかった。
 ……やっぱり気にするものだろうか。
 男としては、あれの持続力とか大きさが元彼と比べてどうとか。
 先制して誉めておこうかとも思ったものの、そんなことを言ったら逆にそれ重視だと思われそうで、それも本意ではない。
 こういう時、どうやってフォローしたらいいんだ……?
 しかしそう悩んだのも束の間のことで、買い物をしているうちに二乃島はいつもの調子に戻ってきて、水月の意識からはそのうち消えていった。


 夕食時のことだ。
 水月は台所で、ぐつぐつと小気味よく音を立てて煮えるカレーをかき混ぜていた。
 不ぞろいに大きく切られたじゃがいもとにんじん。
 二乃島が切ったものだ。
 二乃島は今まで一人暮らしだったが、食事はできあいの惣菜メインで自炊はなおざりだったそうだ。今も塩水を用意した横で食後のデザートにりんごを剥いているが、その手つきはぎこちない。
 なんでも完璧にこなしそうなイメージだったのに、台所に立って一生懸命りんごを剥いているポチがかわいくて、つい頬が緩んでしまう。
 こういうのっていいなぁと幸せに浸っていると。
「水月さん、今度二人で指輪を作りませんか」
 りんごを剥きながら唐突に、ポチがそんなことを言ってきた。
 そう言えば今日、店でジュエリーコーナーの横を通った時、妙に熱心に視線を注いでいたような。
「指輪かぁ。でも買って、使う?」
「それは……人に見せたりはしないですが、その、記念になるかと思いまして。お金は俺が出しますから」
 しょり、しょり、と剥かれるりんごの皮。
 二乃島はりんごに話しかけるように手元を凝視したままで、こちらを向けないほど照れている姿に思わず笑ってしまう。
 それにつられるようにポチは顔を上げ、目だけでどうでしょうか、と聞いてくる。
「うーん、まあ、無理に男女のカップルの真似する必要はないんじゃないかな。僕はどうせ記念に買うなら人前で堂々と見せられるものがいいよ」
 それを聞いて、二乃島ははっとした顔をしていた。
「……それもそうですね。すみません」
「いや嬉しいんだけど、どうしたんだよ急に。指輪なんて」
「いえ、その……」
「また僕に何か買ってくれようとしてたのか? それなら……」
 気を遣わなくていいと続けようとしたら、ポチは首を横に振った。
 違うらしい。
 じゃあなんだろうと思っていると、二乃島は意を決したようにりんごと包丁を置き、「水月さん」と改まって呼びかけてきた。
 どこか思い詰めたような顔。
 想いが募ってどうしようもない、という目でひたと見つめられる。
「俺は四人目、とおっしゃいましたよね」
「え、ああ……?」
「貴方にとっては四人目の恋人でも、……五人目も可能性としては考えていらっしゃるのかもしれませんが、俺は……俺にとっては、貴方しかいないんです」
「……」
 そんなことを気にしていたのか。
 そう思った途端、どくっと熱いものが体の奥から込み上げてくる。
 二乃島は本当に、自分だけを見てくれる。脇目も振らず、一途に。
「だから、今までの恋人とは違う何かがほしくて……すみません、つき合い始めてすぐなのに、こんな……」
 自分でも感情を持て余しているように、髪を乱雑にかき混ぜる。
 そんな二乃島が愛しくて、水月は引き寄せられるように二乃島の体を抱きしめた。
「水月さ……」
「嬉しい」
 見上げて笑ったら、二乃島は目を瞠っていた。
「五人目なんて思ったこともないよ。僕だってポチとずっと一緒にいたい。それ以外考えてない」
 途端、二乃島の腕が背中に回され、水月よりずっと強い力で痛いぐらいに抱きしめられる。
 それが心地よくて、離れがたくて、ぐつぐつとカレーが煮える台所で、二人してしばらくくっついていた。
 どちらからともなく、笑う息がもれる。
 こんな場所で、こんな状況でしなくてもいいのに。
 火にかけたままなので、一度カレーの具合を見ようと離れようとしたら、ポチにぎゅっと阻まれた。
「あの、俺は下手ではないですか、その、他の元彼と比べて」
 ……あ、そこはやっぱり気になるんだ。
 自分だけが俗物ではなかったことにほっとしつつ、水月は意地悪く笑ってみせた。
「そういうの聞くのは野暮じゃない?」
「す……すみませんっ」
 真っ先に「そういうの」を考えた自分のことは丸ごと棚に上げて、慌てふためくポチの反応を一通り愛でた後、水月はこそっと耳打ちした。
「ポチが一番絶倫だよ」
 すると――二乃島は一瞬固まった後、みるみる真っ赤に染まっていき……。
「そっ、それは、水月さんにご負担をかけているという……」
「誉めたんだよ!」
 そこはわかれよと睨んで、でもすぐに吹き出した。ポチも笑われて、困った顔をして、でも嬉しそうにしっぽを振っている。
「ああもう……」
 本当に益体のない、でもかけがえのないひととき。
 だけどそろそろカレーを見ようと、今度こそ体を離そうとしたら、その前に二乃島がかちっとコンロのスイッチを切ってしまった。
「ん? まだできてないけど……うわッ!」
 いきなり軽々と持ち上げられ、思わず高い声が出てしまう。
 そんなことにはお構いなしに、二乃島は水月を抱えたまま、ずんずんと居室のベッドに向かっていく。
「ちょ、カレーは?」
「食事はもう少し後にしませんか」
 一応言葉だけは提案の形を取っているが、どさりとベッドに下ろされた。
 起き上がろうとするとそれを遮るように手を押さえつけられ、見下ろされる。そのひたむきな目に、水月は弱い。
「いや、ええと、こっちをもう少し後にすればいい話じゃ……」
「申し訳ありませんが、待てません」
「待てませんって……いやでも、食べた後の方が体力が持続……」
「優しくしますから」
 と主張半ばに唇をふさがれ、そのむさぼるような口づけにほだされて、流されてしまう。
 別に、それでよかったのだけど。

 ……やっぱり食べた後にした方がよかった、と後半戦でちょっと後悔した水月だった。

おしまい。