立ち読みコーナー
目次
242ページ
文学男子のほっこり恋レシピ    7
あとがき             229
137ページ~
「!?」
 後頭部に優しく手が添えられ、額に一瞬、やわらかななにかが接した。
 すぐに離れたものの、形のいい唇がそこへ触れたのだと悟る。
「There, there」
「い、今のは……?」
「早く治れ的な気持ちなんだが、驚いたよな」
「あ……そう、ですか」
「昔、弟が熱を出したとき、やってたんでつい」
「…なるほど」
 突然すぎて、驚愕の表情が全開になってしまっていた。すぐそばにある整った相貌を、まじまじと凝視する。
 微熱のせいとはいえ、潤んだ両眼で見つめていると受け取られる自覚はなかった。
 驚きはしているが、少しも嫌ではない自分も不思議だった。
「不愉快な思いをさせたのなら、悪い」
「!」
 わずかな苦笑いを含んだ声音で、ハッとした。
 天方のセクシュアリティを既知の知恭に、気を遣ったと即座にわかる。
 誓って、そんなことはないと自信を持って言えた。奇しくも、さきほど慰められた言葉にあったように、彼は彼だ。
 セクシュアリティがどうであれ、人格には関係ない。
「それは、絶対にありません」
「変な気遣いは無用…」
「そんなことは、していません」
「薬研くん」
「僕にとっても、どんな天方さんであろうと、人間的に好きな気持ちは変わらないです」
「…そうか」
「はい」
 もう少しオブラートに包んだ言い方をすればよかったと、今頃、頬が熱くなる。
 しかし、センシティブな問題だ。ニュアンスを間違えれば一大事で、天方を傷つけかねないから、よしとする。
 穏やかな微笑みを浮かべた彼が、〝それでも〟とつづける。
「せめて、事前に言えばよかったな」
「いえ。緊張してしまいそうですから、今のが最善だったかと」
「そんなものか?」
「だって、まだ動悸が治まってないくらいですよ」
 自らの胸元を片手で押さえて、知恭が息をついた。その様子がおもしろかったらしく、肩を揺らしながら笑われる。
 笑い事ではないとぼやいて間もなく、天方が言う。
「じゃあな」
「おやすみなさい。本当にありがとうございました」
「明朝には、完治してることを祈る」
「ありがとうござ……っ」
 予告なし行動二番目のハグをされて、驚倒で言葉が途切れた。
 背中へ回った両腕が一瞬、知恭をきつく抱きすくめる。なにをどうすればいいか、わからないまま、棒立ちでいた。
 外国文学や映画、ドラマでは、よくある場面だ。過日、柚木と彼のハグも眼前で見たが、いざ自分がとなると固まるしかなかった。
「おやすみ。しっかり眠れよ」