立ち読みコーナー
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龍の妻恋い ~うそつき龍の嫁取綺譚~   7
あとがき                 272
「光雅、さま……?」
 この屋敷にはだまして連れてこられ、結界を張って閉じ込められた。おまけに、八歳の時になくしたとばかり思っていた宝珠は光雅に拾われていて、宝珠を質に取られてもいる。
 それでもなぜだか、清伊は光雅が自分に害をなすとは思っていなかった。光雅が自分にひどいことをするわけがないと、どこかで盲信していた。
 ─今も。
 床に押し倒され、上体に伸しかかられて両腕を押さえつけられていても。光雅が怖いくらいの真顔でいても。清伊はまるで危機感をおぼえなかった。
「光雅さま、あの……おれ、言いすぎました……?」
 かっときて、意地を張った。嘘もついた。ついに光雅を怒らせたかと清伊は尋ねた。
 ほう、と光雅は眉間にしわを寄せると溜息をついた。
「……そこまで無邪気に見上げられると……自分が本当にとんでもない悪人のような気がしてくるな」
 悪人といえば悪人だろう。御所から清伊を連れ出して自分の屋敷に閉じ込めているのだから。だが、どうやら光雅が言っているのはそういう意味のことではなかったらしい。
「おまえは先ほどから覚悟覚悟と言うが……では、主上に望まれれば口吸いもためらわぬのだな?」
 光雅は指先で清伊の唇を上、下、となぞりながら、そう聞いてくる。
「くちすい?」
 初めて聞く言葉だ。口の水?と問い返したところで、光雅の顔が近づいてきた。昨夜よりもっと近くまで。そしてついに、指で撫でられていた唇に、光雅の唇が重なった。
「っ……」
 驚いた。
 唇に触れる柔らかく温かいものが光雅の唇の感触なのだと理解した瞬間、清伊は「え」と声を上げた。その声は重ねられた唇に邪魔されて「ぶぇ」と変な音になる。
 驚く清伊にかまわず、光雅は二度、三度と口を押し当ててくる。ふわん、ふわん、と厚みのある花びらが押しつけられたかのような感触のあと、清伊はそこに圧をおぼえた。上へと引っ張られるような感覚に、さっき聞いたばかりの言葉が突然に結びつく。
(くちすいって、口吸いなんだ!)
 ちうっと濡れた音が立ち、唇を光雅の唇に柔らかく挟まれる。
 二枚の花びらがしっとり濡れた。
 温かくて柔らかく、そしてぬるぬると濡れた光雅のそれが、清伊の花弁の上を這い、挟み、そして吸い上げる。
「……っ」
 なんの拍子にか、背中にぞくっと痺れのようなものが走った。熱が出る前の悪寒に似ているが悪い感じはなく、むしろ何度でも味わいたいような甘さがそこにはある。
「ふ、ん……」
 もう一度、今度は少し強めに唇を吸われた拍子に、鼻から変な声が抜けた。仔犬が甘えて鳴く時のような音に、清伊はあわてた。なんて声が出るものなのか。
「み、みつ……」
 光雅さま、もうやめてください。そう言って覆いかぶさる光雅から逃れようともがくと、大きな手で顎を掴まれた。顔を固定され、また唇を塞がれる。
「んぐぅ」
 抗議の声を上げることもかなわず、顎を両側から圧迫されて、自然に口がゆるんだ。
「─ッ」
 ぬるり。
 開いた唇のあいだから、なにか濡れたものが口の中に入ってきた。
(まさか、舌!?)
 まさかとは思うが、だが、感触的にも、唇同士が触れ合っている状況的にも、それは光雅の舌にちがいなかった。
 他人の舌で唇や口の中を舐められるという異常事態に、清伊はあせる。
「ふごぉッ、んごッ」
(光雅さま!なにを!)
 だが、光雅は清伊の抗議などまるで意に介していないかのように、清伊の口腔を舐めるのをやめてはくれなかった。
 光雅に伸しかかられ、顔を手で捕らえられ、思うさま、唇と口内をねぶられる。
(これ……なに……なに、これ……)
 鼻が塞がれているわけではないから息はできるが、そうして光雅に口を吸われ、舌を絡められているうちに、だんだんと頭がぼうっとしてきた。背筋にも幾度もあの悪寒めいた痺れが走り、そうこうするうち、本当に体温が上がってきたのか、顔と躯が火照りだす。
 唇を吸われればチュッチュッと音が立ち、舌先で歯列をくすぐられると頭の中にまで濡れた音が響いてくる。
「あふ……」
 重ねた唇のあいだから恥ずかしい声が漏れ、清伊は身の置き所がないような思いで身をすくめた。と、顎にあった光雅の手が今度は耳へとすべり、じゃれるように耳朶を引っ張ったり指先でくすぐったりしてくる。
「や、あ……!」