立ち読みコーナー
目次
250ページ
豹王の刻印     7
あとがき      244
206ページ~
 この男は豹の姿で自分を犯すつもりだ。
「アレクセイ……。やめて、くれ」
 恐怖に掠れる声で訴えるが、豹にははなから明人の声を聞く気はないらしかった。ぐっと背を押さえ込まれて鋭い爪が皮膚に食い込む。そうされてしまえばもう振り向くこともできやしない。
 頭の中がぐちゃぐちゃに乱れてなにを考えることもできなくなった。ありえない、あってはならない、そんな自分の声が意識の中に渦巻くだけで、ほとんどパニックだった。
 無理な体勢と肌へ刺さる爪の痛みに呻いた次の瞬間に、身構える間もなく性器の先端をずぶりと埋め込まれていた。
「ひ、ああ!あ……ッ、うぁ、あっ!」
 いきなり太い性器を一気に突き立てられて悲鳴が散る。逃げようにももがこうにも、あまりの衝撃に硬直した身体は動かない。
 一度根元までねじ込んでしまうと、豹はすぐに律動をはじめた。
 豹の性器には棘がある。もちろんいま自分を貫いているものにもだ。内側を掻きむしられるような知らない感覚に思わず枕をぎゅっと握りしめた。
「や……ッ、あ、あっ、は……っ。アレク、セイ、やめろ……っ」
 恐慌も、それから苦痛ももちろん声に出ていただろう。しかし豹は動きを止めようとはしなかった。
 わがままなまでに荒々しく突きあげられて目が眩んだ。深く刺さった性器が出ていくたびに、棘ががりがりと引っかかって内壁がめくれあがってしまいそうな感じさえする。
「あぁ、あ……、痛い。裂け、る……っ」
 切れ切れに洩らしてもその荒っぽさは緩まりはしない。どころか、豹はますます激しく明人を穿った。
 身体を内側からずたずたにされるみたいで苦しかったし怖かった。なのに、はあはあ呼吸を乱しながらしばらく耐えているうちに、その痛みがじわじわと快感に変わってくるのがわかった。
 自分にぞっとした。
 こんなふうに蹂躙されて気持ちがいいなんておかしい。
 そうではないのか。いま自分を貪っている豹がアレクセイであるから、愛する男だからこそこうも被虐に歪んだ、であるのに切実な快感を得るのだ。
「アレクセイ……ッ、はぁ、あ……、いや、だ。駄目……っ、痛い、のに、気持ちいい。どうしよう……っ」
 湧きあがる快楽をうわごとのように声にした。豹に犯されているという異常な状況は頭から半ば飛んでいた。
 その言葉を受け、豹が動きを変えた。ずるずると大きく出し入れしていた性器の先端で、あからさまに前立腺のあたりをぐいぐい刺激される。
「あ、あっ!駄目、それ、駄目だ……ッ」
 途端に絶頂の波が押し寄せてきた。自分の性器が限界まで屹立し、いまにも弾けそうになっていることは当然わかった。
 身をよじって逃れたくても、がっちり押さえ込まれていてはかなわない。狙いすました角度でくり返し弱点を突かれ、身体ががたがたと震えてくる。
「んぅ、はぁ、や……っ。いく。もういく、いきそう、やめてくれ」
 ぎゅっと目を瞑り、なんとかこらえようとはした。こんな行為に溺れるなんて、それで達するなんて、まともなセックスに二度と引き返せなくなりそうだった。怖い、その思いが、快感と同じ大きさで膨れあがる。
 だが、豹は明人の惑いを許しはしなかった。いけ、というように重く腰を使われそれ以上は我慢もできず、結局はシーツの上に精液を散らしてしまう。
「あ……!は……!あぁ、おれ、出てる……っ」
 閉じた瞼の裏が絶頂の衝撃でちかちか点滅した。無意識に小さな声を洩らすと、引きつる明人の中で豹もまた射精した。
 どぷりと深い場所に注ぎ込まれてざっと肌が粟立つ。その感覚は間違いなくよろこびだった。
 これはセックスといえるのか、レイプなのか、恍惚に沸き立つ頭で考えてもよくわからなかった。だが、どちらでもいい、アレクセイが好きだ、それだけは思考に刻まれているかのようにはっきりと知っていることだった。
 なにをされてもどんな姿でも、ただアレクセイを愛している。
 ようやく性器が抜け、ぐったりと濡れたシーツに身を沈めた。しばらくは身じろぐこともできなかった。豹の性器で擦りあげられた内側がじんじんと熱い。
 息を乱して脱力していると、不意に腕を掴まれた。身体を仰向けにされて見あげたアレクセイはもうひとの姿に戻っている。
 その表情にはっとした。美貌に浮かぶものは、隠すつもりもないらしい深い苦悩だった。
 正面から、まるで縋るように抱きしめられてくらくらした。彼の身体はあたたかく、腕の力は知らないくらいに強い。
「君をレンに渡したくない」