立ち読みコーナー
目次
242ページ
桃色蜜月 ~雪兎とヒミツの恋人~   7
恋人とヒミツの夜           199
あとがき               238
P115~
「おいで」
 手を差し伸べた史顕にこくりとうなずいた『ぴょん太』は、おずおずと自分の手を重ねて史顕の布団に身を横たえた。
(わあぁぁっ、だから、絶対に変な光景だって! おーい……ぴょん太、史顕……嫌がってんのは、おれだけか)
 シャドウボクシングの如(ごと)く、誰も相手にしてくれないのに一人でギャンギャン喚くのに疲れた。
 特大のため息をついた理生は、史顕に寄り添って嬉しそうな様子の『ぴょん太』に(まぁ、どうせ誰も見てないし)と渋々譲歩する。
「僕が一緒で、狭くないですか?」
 そっと目を向けた『ぴょん太』の目に映る史顕は、恥ずかしいとしか言い表しようのない甘ったるい笑みを浮かべていた。
「全然。あたたかくて気持ちいいな。……理生は?」
「あったかい、です」
「それならいいだろう?」
 史顕の問いに、『ぴょん太』はコクリとうなずいて、緊張で強張っていた身体の力を少しだけ抜いた。
(うぅぅ……変な感じだ。おれの名前で呼ぶとは言われてたけどさぁ。確かに、史顕から見れば『ぴょん太』っていうより、『おれ』なんだろうけど)
 史顕から見れば、『理生』にしか見えないだろう存在を抱き寄せながら……なにを考えているのか、一ミリも理解できない。
 もしかして、この三年ほど冷たく当たり続けたことへの意趣返しというか、嫌がらせだろうか。
 でもそれなら、自分に『ぴょん太』ではなく『理生』の意識がなければ、成立しないはずで……史顕は、『ぴょん太』に身体を貸している時の理生に、自身の意識が残っていることを知らない。
 今、見かけは理生の『ぴょん太』は史顕に抱かれて明らかに喜んでいるのだから、嫌がらせとしては意味がないとわかりそうだ。
 だったら、『ぴょん太』に同情しての、ボランティア精神によるものか? 
 そう思えば納得できなくもないが、外見は『理生』……弟なのに、恋する目で見られることに対して史顕は抵抗を感じないのだろうか。
「史顕さん……お優しいですね」
「……ズルいんだよ」
「ぇ……? どこが、ですか?」
 予想外の一言に驚いて、目をしばたたかせて聞き返した『ぴょん太』に、史顕は短く答えた。
「秘密」
(ワケ、わかんねーよ……史顕)
 布団の中で寄り添う二人の会話は、意味不明だ。
 立ち聞きしている状態の理生だけでなく、間近で言葉を交わしている『ぴょん太』も不思議そうだったけれど、「秘密」の一言で質問をシャットアウトした史顕はそれ以上なにも言おうとしなかった。
 なにも言えなくなった『ぴょん太』は、史顕の肩口に頭を預けて目を閉じる。
 無言が気まずいわけでもなく、ただ……あたたかい。
 優しいぬくもりが、抱き込まれて密着した史顕からだけでなく、意識を共存させている『ぴょん太』の心からも伝わってくる。
 一途に、史顕を……いや、『秀臣』の血を継ぐ存在を慕っているのだと、理生まで胸の奥が苦しくて切なくなる。
(おれも、史顕のことが特別に好きみたいな……変な気分になるじゃんか。バカ)
 この想いが、『ぴょん太』が『秀臣』に向けるものなのか、『理生』が『史顕』に向けるものなのか、入り混じって……混乱する。
 忙しない動悸は、誰のものなのだろう?