立ち読みコーナー
目次
258ページ
きみと二人でウチごはん     7
きみと一緒におむすびを     229
あとがき            255
104ページ~
とりあえず、デザートを含め、五品をつくる。
一品目はマッシュルームのこんがりバゲット添え、二品目はひすい豆のスープ、三品目はキノコとかぶの自家製タリアテッレ、四品目は春キャベツと白いんげんの煮込み、五品目は完熟イチゴとマスカルポーネを使ったデザートだ。
史佳の好物をふんだんに取り入れたメニューになっている。
「さて。下拵えを始めようかな」
葉書サイズのメッセージカードを手に、朝日奈が自室を出て一階に下りていく。まっすぐダイニングキッチンに向かい、エプロンを身につけた。
業務用冷蔵庫の扉を開け、必要な食材を取り出す。
この日に備えて抜かりなく、最高のものばかりを仕入れていた。
昼食を挟んで黙々と作業に励み、午後五時頃にはすべての準備が整う。
「あとは、テーブルセッティングだな」
ダイニングテーブルは普段から、アイボリーのテーブルクロスをかけている。それを黒に替え、さらにボルドーのテーブルランナーを中央部分に重ねて敷いた。
馴染みのフラワーショップで作ってもらったアレンジメントとキャンドル、カトラリー類も並べ、各々の席にメッセージカードを置いて完了だ。
「おっと。そうだった」
寒がり屋の史佳のために、空調をつけておく。朝日奈は体温が高い体質のせいか、寒さに強かった。
殊に今は、ずっと細々と動いていたので、いちだんとだ。
しばらくして、玄関のほうで物音がした。彼が帰ってきたようだ。
帰宅後、史佳はまず洗面所に行く。手を洗って、うがいをするのが習慣らしい。そののち、自室に上がっていって部屋着に着替え、リビングに来るという流れだった。
この間に早速、デザートを除く料理を仕上げて、テーブルに並べた。
コース料理なので、本当は前菜から順番に一品ずつ出したいところだが、食事の途中で自分が席を立つと、彼が気を遣いそうだったのでやめた。
やがて、階段を下りてくる足音が聞こえ、リビングのドアが開かれる。
「ただいま」
「おかえり、市居くん」
「うん」
「外は寒かったのかな?」
「今日はそうでもなか……って、え!?」
朝日奈がいるダイニングキッチンに、史佳がやってきた。グレーの長袖カットソーにカーキのジョガーパンツという、いつものスポーティな部屋着姿だ。
スレンダーな体格の彼は、なにを着てもきっと似合う。
呑気にそう思う自分をよそに、史佳は双眸を瞠っていた。完璧にセッティングされたテーブルに気づいたからだ。
メッセージカードにも目を留め、おもむろに手に取った。
ほどなく読み終えたあと、半ば呆然とした声で訊いてくる。
「……これは?」
サプライズのつもりではなかったが、結果的にそうなってしまった。
驚愕しすぎて立ち尽くす史佳に歩み寄り、話しかける。
「研修は、今日で無事に終わったんだよね」
「あ、うん。なんとか…」
「その慰労と、きみが明日から本格的な社会人になる記念のディナーだよ」
「!」
「お疲れさま」
「……わざわざ、俺のために?」
「まあね。久々にじっくりと料理ができて、僕も楽しかったけど」
「…この料理もメッセージカードも全部、朝日奈さんの手づくり?」
「そう。あと一品、ドルチェ……デザートもあるよ」
まだ冷蔵庫で冷やしていると返した朝日奈に、感嘆の眼差しが向けられた。
素直な感服ぶりが心地よくも、こうも純粋によろこばれるのは初めてで鮮烈な印象だ。今回はイタリアンだったものの、また好きなものをつくってあげたくなる。
感銘を受けて言葉もないといった風情の彼を、優しく見つめ返す。