立ち読みコーナー
目次
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ヴィジュアル★プレス ~えっちな下着を穿くだけの簡単なお仕事ですっ~  7
あとがき                                257
149ページ~
「まったく─岩瀬のその自己評価の低さは、一体どこからきているんだ」
「どこからって……そんなの、誰がどう見たってオレなんか底辺じゃないですか」
 誰の種からできたのかもわからず、母親はその日暮らしで男をとっかえひっかえしていた。おまけにその母親からも棄てられ、義務教育までしか受けていない。こんな男の一体どこに、まともな価値を見出せるというのだろう。
「何度いえばわかる。岩瀬は底辺なんかじゃない。私にとってお前はかけがえのないミューズだ。私だけじゃない。いったいどれだけのひとが、お前の勇姿に救われたと思ってるんだ」
「そんなこといってくれるのは社長くらいなもんで……」
「嘘をいうな。知らないとはいわせない。お前がWBC王座を獲った後、ジムに入門者が殺到したそうだな。大野会長曰く、お前が引退した今も、明日の岩瀬成人を夢見てやってくる若者が後を絶たないそうじゃないか」
「それは、同じようにデカい王座を獲りたいから、よい指導者を求めて集まってきているだけで……」
「違う。それだけじゃない。みんな、お前に憧れているんだよ。お前は外見のよさだけで『剛腕の貴公子』旋風が起こったと思ってるのか?確かに女性ファンの大半は、お前の容姿に惹かれて応援しはじめたかもしれない。だけどそれだけじゃないんだよ。お前の戦う姿は、見る者の心を思いきり激しく揺さぶるんだ。だからこそ、みんなお前の姿を一瞬だって見逃すまいと会場に詰めかけた。私だって、どんなに忙しくたって岩瀬の試合は、駆けつけずにはいられなかったんだよ」
『岩瀬成人の試合は、昨今の格闘技不況が嘘のようにチケットが売れる』
 業界内で、以前からいわれつづけていたことだった。
 単に、普段は会場に足を運ばないような女性たちが詰めかけているからだと思っていた。けれども、社長のように純粋にオレの戦う姿を見たいと思ってくれていたひともいたのかもしれない。
「社長は……オレの、身体つきだけに惹かれていたわけじゃないんですか……?」
「当然だ。そりゃ、身体つきや顔立ちも魅力的だと思うよ。だが、それだけなら写真を眺めていれば事足りるだろう。そういうことじゃないんだ。リング上でひたすら真摯に相手に立ち向かっていくお前の姿に、惹かれずにはいられなかったんだよ」
 熱の籠もった口調でいいきられ、その迫力に気圧されそうになる。
『アイツが人気なのは単に顔がいいからだ』
『王座を獲ったのだって、金を積んで買っただけだろ。アイツが出れば雑誌も売れるし、テレビ放送も視聴率獲れるもんなぁ』
 女性ファンの割合が極端に多すぎて、そんなふうに陰口を叩かれることも少なくなかった。だけど、ちゃんと自分の試合を好きだと思ってくれているひとがいたのだ。
 そのことが嬉しくて、同時に、たまらなく哀しい。
「もう……全部、失くしてしまったものです。オレは二度とリングには上がれない」
「リングに上がらなくたって、岩瀬は岩瀬のままだ。今はサブライムで、懸命に戦ってくれているだろう」
 社長の手のひらが、ふたたびオレに触れる。くしゃりと髪を撫でられ、たったそれだけの接触で心臓が壊れそうに暴れた。