立ち読みコーナー
目次
330ページ
約束の楽園     7
あとがき       312
216ページ
俺に飼われたいんだろう」
浮木が手袋をゴミ箱に放り込み、振り返った。まるで、なにかのついでみたいに、唇にキスをされる。里玖はそのまま目蓋を閉じ、唇が触れ合う柔らかな感触に没頭した。
「……ん……」
里玖はスキンシップが好きだ。浮木に触れている間だけはなにも考えなくて済む。高揚と快感で一時的に感覚が麻痺するのかも知れない。家にいるときはなにかとくっつきたがる里玖に、浮木ももう慣れたのか、なにも言わないで甘えさせてくれる。
「なぁ、しようぜ」
唇が離れた瞬間、なんの脈絡もなくねだる。
「料理の途中だ」
「したいんだ。いますぐ」
浮木は呆れた顔をしたが、思い直したように、成形したタネの並んだバットを冷蔵庫に入れた。無言でエプロンを外し、里玖を見る。
「最後まではしないぞ」
「……うん」
里玖が不安を感じているとき、浮木は誘いを拒まない。黙って我儘を受け入れてくれる姿に、里玖は愛情を感じて安心する。
「浮木、さん……」
カーテンを閉め切った薄暗い寝室で、制服も脱がないまま、抱き合った。
横向きにベッドに寝転んだ体勢で何度も飽きずにキスをする。自分を受け入れてくれていると感じられるこの行為が、里玖は好きだ。ドキドキして、気持ちよくて、安心できる。だが浮木の身体に触れようと手を伸ばした途端、左右一纏めに捕まえられた。
「それは駄目だ。里玖」
「……なんで……っ」
里玖はもどかしく身を捩り、昂奮に目を潤ませて浮木を睨んだ。
キスはしてくれる。抱き締めてもくれる。だがそれ以上のことはしてくれない。セックスどころか、互いの性的な部分に触れることを固く拒む。
「や、だ……イキたい、擦って……っ」
セックスが駄目でも、せめて直に触って欲しい。浮木の手を借りたくて必死にもがく。だがいくら懇願しても浮木は頑なに触れてくれない。
身体の反応を見るにつけ、不能というわけでは決してない。なのに頑なに禁欲を貫いて、最後の最後で里玖を拒むのだ。思い余って、里玖は腫れ切った股間を浮木の太腿に押しつけた。
「っあ、……っふ」
痺れるような快感が脳を灼いた。そのまま浮木の引き締まった太腿に、自らのモノを擦りつける。布越しに、お互いの上がり切った体温が伝わってきて、背筋が震える。
「……んっ……き、もち、いぃ……っ」
腰をくねらせ、挟み込んだ浮木の脚に夢中で性器を擦りつけた。限りなく自慰に近い疑似セックスだ。ふたりとも服を着たままなのが、かえって卑猥なくらいだった。
息を乱し、熱に浮かされたように喘ぎを漏らしながら、みっともなく腰を振る。下着が先走りでぐっしょり濡れ、制服の前までもがじっとりと湿っていた。
「たった十七歳で、こんな、いやらしい遊びを覚えやがって……」
汗ばんだ額に口接け、浮木は哀れみと嘲りの入り交じったような目で里玖を見る。かき集めた理性で情欲に抗いつつも、隠しきれない劣情で息が荒い。
このまま、この男に犯されたい─里玖は乾いた唇を舐め、浮木に貫かれる自分を想像する。
それだけで、下腹部に重い衝撃が走った。
「あ、あ─……」
切なく眉を寄せ、ガクガクと腰を震わせる。
世界から拒絶されても、浮木だけは自分を理解し、受け入れてくれる。浮木のことをだれよりも理解し、受け入れることができるのもまた自分だけだ。
(……浮木さんがいればいい……)
両脚で浮木の太腿をぎっちり挟み込んだまま、里玖は恍惚と息をついた。