立ち読みコーナー
目次
290ページ
雪だるまは一途に恋をする       7
Freezing Heart     165
雪だるまのしあわせ          223
あとがき               287
140ページ~
強く引き寄せられて、ユキは琉の胸に倒れこむ。おかしい。暖炉の火のせいではなく体が火照ってくるのがわかる。
「おまえは控えめでおとなしいが芯は強い。一緒にいると妙に安心したし、俺のために役に立とうと一途に尽くしてくれるのを見ているうちに、以前とは違う感情からおまえを守りたいと思うようになっていた。わかるか?」
「あの……それは、ぼくを……」
「ああ、特別に好きだ。ユキ、おまえを……雪だるまだったおまえをな」
「っ……」
心が震え、瞳が熱くなる。翼と、ユキを人間にしてくれた大きな方に心から感謝した。ちっぽけで不格好な雪だるまだった自分が今こんなに嬉しい気持ちでいられるのは、全部彼らのおかげだ。
「平穏に暮らせるようになったらおまえを麻耶に預けて、俺は旅にでも出ようと以前は思っていた。でも、もう無理だ。おまえをそばに置きたい。二度と俺から離れるな。いいか?」
頷こうとしてためらう。ユキはずっと琉と一緒にいられるわけではない。あとひと月もしないうちに、春はやってくる。雪だるまの体が融けてしまえばきっと、ユキの心は消えて体も冷たくなってしまうだろう。
「琉さん、ぼくは、春になると……」
開きかけた唇に人差し指が押し当てられ、続く言葉を遮った。
「悪い未来は考えるな。俺が必要としている限り、おまえはずっと俺のそばにいる。そうだろう?」
「琉さん……はいっ、ずっと……」
視界が涙で霞んだ。人は嬉しいときにも泣くのだと、ユキは初めて知った。
奇跡は、また起こる。それを信じよう。近いうちやってくる別れの日のことを、少なくとも今は考えないでいよう。
温かい大きな手にそっと両方の瞼を伏せさせられ、優しい闇の中で唇に触れてくるものを受け入れる。普段は冷たげに見える琉の薄い唇は、やわらかくユキの唇を啄ばむ。心地よくて安心する。特別に好きな人同士が、そうやって唇を合わせたくなる気持ちがよくわかる。
「ん……」
思わず喉の奥から声を漏らしたのは、琉の舌が歯の間をくぐって入りこんできたからだ。びっくりして奥に引っこんでしまうユキの震える舌を探して、琉の舌が口の中を撫でる。指先よりも熱くてしなやかなその感触に、次第に頭がぼうっとなってくる。
そろそろと差し出したユキの舌は、琉にからめとられ軽く吸われてしまった。瞬間体の奥の方で何かがぱちんと弾け、ユキはふるりと震えた。人になってから初めて感じる、ふわふわした気持ちよさだ。
どうしたらいいのかわからず一生懸命呼吸を止めていたユキは、やっと解放された唇を開きふぅふぅと息をした。
「ユキ……」
名を呼ぶ琉の瞳にはゆらゆらと炎みたいなものが見えていて、眩しさにユキは瞬く。
「抱いていいか」
頷いた。琉にぎゅっと抱き締められるのは大好きだ。
けれど琉はユキの期待に応えぎゅっとしてはくれず、着ていたセーターをたくし上げ器用に脱がせてしまった。下に着ていたシャツも脱がせられ、真っ白な肌があらわにされる。胸の銃弾の痕を見た琉は微かに眉を寄せ、そっと指でそこに触れてきた。
「痛かっただろうな……」
押し殺したつぶやきにユキの心も痛む。
「でも翼は、最期に笑っていました。楽しかったと、言っていました」
また涙がこみ上げてくるのを堪え伝えると、琉の表情はやわらぎ口元は微笑んだ。
「そうか……」
尊いものに触れるような手つきでそっと傷痕を滑り下りた指は、ユキのズボンにかかった。大事に包まれたプレゼントをほどくように、琉はユキの下半身から衣服をすべて取り去る。ユキはいたたまれなさと恥ずかしさにもじもじと身を縮める。
雪だるまのときは服は必要なかった。人間になったら服を着ないわけにはいかず、面倒だなと思っていた。けれど裸にされて琉にじっとみつめられると、不安よりもなんだかとても甘い恥ずかしさが満ちてくる。
「琉さん……どうして脱ぐのでしょう。お風呂ですか?」
純粋な疑問から尋ねると、琉はわずかに瞳を瞠った。
「おまえ、何も知らないのか?あぁ、そうだよな……」