立ち読みコーナー
目次
258ページ
いかがわしくも愛おしい       7
あとがき                252
133ページ~
「社長だと、大丈夫な気がします……」
「そんなに俺は人畜無害そうに見えるか?」
「そういうことでは、ないんですが……」
 上手く言えない。その間も、新開の指先は譲の胸の上を彷徨っている。
 指先が胸の尖りに触れ、譲は体を跳ね上がらせた。くすぐったくて身をよじれば、執拗に同じ場所を弄られる。
「しゃ、社長……あの……」
「慣れてなきゃ気持ちよくもなんともないだろうが、感じてるふりぐらいしてみろ」
 言外に、それくらいできなければカメラの前に立たせられないと言われた気がした。
 譲は息を殺してこそばゆさをやり過ごす。だが、感じているふりとはいかなるものか。テレビからはときどき甘い声がして、あんなふうに声を上げればいいのだろうが、気恥ずかしさが先に立った。
 困り果てて唇を噛んでいたら、新開がちらりとこちらを見た。演技もできないのかと咎められそうで思わず目を閉じる。だから譲はその後の新開の反応がわからない。
 頬から耳まで赤くし、潤んだ目で唇を噛む自分が、演技でもなんでもなく相手の保護欲や嗜虐心や、それにまつわる劣情をそそる顔をしていたことなど、知る由(よし)もない。
「……桐ケ谷」
 いつもより低い新開の声が耳元で聞こえた。あまりの近さに目を開けると、最初に押し倒されたときのように、新開が譲の首筋に顔を埋めている。そこに熱い唇を押し当てられ、譲は息を呑んだ。
「あっ……ん……」
 首筋から耳の裏まで唇で辿られ、期せずして高い声が漏れる。とっさに唇を噛んだが、どうやら新開の耳には届かなかったらしい。テレビからは、先程からギシギシとベッドの軋む音とともになまめかしい嬌声が流れ続けている。その音が掻き消してくれたようだ。
「……っ、ふっ……」
 耳の裏をきつく吸い上げられ、息遣いが乱れる。譲の胸の突起を弄っていた手がゆるゆると下降して、スラックスの上から体の中心を撫でた。途端に譲は目を見開き、新開の手の動きも一瞬止まる。
 スラックスの布地を押し上げ、譲の雄が反応している。
 自分でも今の今まで気づかなかった。羞恥に襲われ、耳どころか首筋まで赤くなる。
「……治ったみたいだな、ED」
「そ……っ、そう、ですね……昼は、駄目だったのに……」
「症状には波があるんだろ」
 譲の声が含羞で震えていることに気づいたのか、新開も深く追及はしない。そして、迷いも見せずスラックスのフロントホックを外しにかかった。
 さすがに驚いて、新開の腕を掴んでいた手に力がこもった。初めて新開を止めるような仕草を見せた譲を見下ろし、新開は潜めた声で言う。
「本番では相手役に下半身を好きに弄り回されるんだぞ。本当にできるか?」
 再三の確認に、譲はごくりと喉を鳴らす。嫌だと言えば、新開は大人しく手を引いてくれるだろう。と同時に、譲の出演はこの先完全に見込めなくなる。
 会社のためだ。
 違う、新開のためだ。
 譲はゆっくりと新開の腕を掴んでいた指から力を抜く。それを感じたのか、新開は押し殺したような溜息をついてフロントホックを外し、下着の中に手を突っ込んできた。
 まさかいきなり素手で握り込まれるとは思っておらず、譲は鋭く息を呑む。大きな掌は譲の雄を握り込み、ためらいもなく上下に扱いてきた。
「し……っ、社長、ま……っ、あっ……!」