立ち読みコーナー
目次
242ページ
花の匣 ~桜花舞う月夜の契り~    7
あとがき                   232
52ページ~
「敦頼」
上身をそろりと倒してきた雅宗が、眦に唇を落とす。
閉じていた瞼を開くと、気遣わしげな眼差しと目が合った。いつ、なんどきも、敦頼を思いやってくれる優しさに、慕わしさで胸が打ち震える。
肌を触れる際が最も、彼のまっすぐな想いが届いた。
ただの接触でなく、深々と身体を繋げるせいか、遮ろうにも難しいのだ。愛しい相手ゆえに、敦頼のほうに心のゆとりが持てない推量も否めない。
雅宗の愛情がうれしい反面、近づく今生の別れがせつなくなる。
せめて、この命が尽きるまでに、彼の役に立ちたかった。異母兄が憂える政についても、己の異能で、できうる限りのことをして逝きたいと願う。
こうもよくしてもらった敦頼が彼にできる恩返しは、それくらいだ。
「苦しいのか?」
「……い、え…」
「無理をしてはおらぬな?」
「おりま…せぬ」
愛する人の両頬を手で包み、涙で霞む瞳で黒い双眸を見上げた。
 髻が微かに乱れ、髪が額に降りかかる姿も、端麗さを損なってはいない。どんな彼も、心に留めておきたいと思いながら言う。
「もっと、奥深くへ……参っていただき、たく…」
「そなたがよいと申すなら、そうしよう」
「は、い……ああぁ、んぅん」
「私も、もう辛抱できぬようだ」
「っん…何卒、存分に……なさって、ください…ませ」
根元までおさめ切られた熱塊の鼓動は猛々しくも、雅宗は必ず『動く』と、あらかじめ告げてくれる。
抜き差しはさすがに激しいが、緩急があって泣かされどおしだ。
敦頼の悦いところを、寸分の狂いもなく突いてくるので、甘美に酔いしれる。
「あっ…あ……んん…義兄君…っ」
「敦頼」
「手、を……繋い…でっ」
「こうでよいか?」
「んっ…」
顔の両脇で指を絡めて手を縫い止められ、肯じた。彼の腰の動きに間断がなくなる。
互いの腹で擦られ、またも芯を持っていた敦頼自身が果てた。
「ああ……あぁんあ…ぁ」
「顔つきもだが、そなたは声もあえかでよいな」
「あ、義兄君に……触れて、いただいていると……思うだけで……わたくしは…っ」
「…左様に殊勝なことを申すでない」
「ふぅ、ん…く」
困ったふうながらも、満足そうに述べた雅宗が一瞬、息を詰めた。
淫精を逬らせるのだと察し、敦頼が握った手に爪を立てる。今、まさに腰を引こうとしていた彼へ、必死に希う。
「わたくしの内にて……お出し、いただけます…か」
「なれども」
「お願いで、ございます」
「………」
契るだけでも、疲れる敦頼だ。中に吐精されたら、その始末にも精力を奪われる。
初めてのときにそれを学んだ雅宗は以来、外で極めるよう努めている。心遣いはうれしいけれど、今後はそんなことは気にせず、心ゆくまで奔出させてほしい。
途切れがちにそう訴えると、彼が苦笑いでうなずいた。
「それが、そなたの望みなら」