立ち読みコーナー
目次
266ページ
告白は背中で       7
あとがき         263
「っ…!」
 驚いて声を上げる間もなく、抱きしめられ、さらにキスされていた。相手はもちろん、桜庭さんだが、信じられない思いが強く、思考も身体も硬直してしまう。え…どうして? なんでこんな展開に? 
「…!?」
 理解できずにされるがままだったのだけど、深く口づけられると同時に、強い酒の味も伝染されて、酔いそうになる。強いアルコールの味と香りはさっき桜庭さんが手にしていたバーボンのものに違いない。
 それはわかるんだけど…。こんなに強烈に伝わってくるなんて、桜庭さんはどれだけ飲んだんだろう? もしかして、ふいにいなくなった桜庭さんが戻ってこないのを心配して、俺がキッチンを覗くまでの間、ずっと飲んでいたのでは…。
 そんな推測を立てながらも、もう一方では次第に状況を把握し始めた脳が、いけないと警鐘を鳴らし始めていた。桜庭さんとキスしてる。しかも…ものすごく、激しいやつだ。
「っ……ん……っ…ふ……っ」
 言葉にして考えてみると、焦りが高まってきて、桜庭さんを追いやろうと力をこめて彼の身体を押した。しかし、段違いに体格のいい桜庭さんを突き放すことなどできず、必死で声を上げようとする。
「…っ…ん…っ…や……っ」
 やめてくださいと言おうとしても、桜庭さんの唇が離れないからまともな声が出ない。次第に息苦しくなってきて、頭が朦朧とし始める。けど、ぼんやりとしてくる中で、新しく生まれている感覚があった。
 強引な口づけなのに、桜庭さんのキスは巧かった。長く口づけた経験は乏しい上に、快楽にも遠い生活を送っていたから、余計な感覚が生まれるのを防げない。まずいと真剣に思って、桜庭さんの胸を拳で叩く。
 それでようやく桜庭さんは俺の抵抗に気づいてくれ、キスをやめてくれた。
「っ…は……あ…っ…。…な…何する…っ…」
「好きだ」
「え…?」
「好きなんだ」
 桜庭さんにつき合ってくれと言われ、そういう対象で見られているのだと理解した。けど、面と向かって告白されるとは思ってもいなくて、ぽかんとしてしまう。それに展開的にもよくわからない。
 俺と一緒に働くのが気まずいのだと思い、自分は身を引くから川満さんたちを助けて欲しいと頼んだ後の…これだ。それに桜庭さんはつき合ってくれと言ったものの、その翌日には自ら発言を撤回している。
 それなのに…どうして、今頃? 唖然とする俺を桜庭さんはぎゅっと抱きしめた。肩に顔を埋め、耳元で「好きだ」と繰り返す。
「あ…の……」
 好きだと何回言われたとしても…俺にはそういうつもりはない。そういう自分の気持ちをどうやって伝えればいいか。今後のことも考えて、穏便に伝える方法を考えていたところ、突然、身体が宙に浮いた。
「っ…えっ…?」
 抱きしめられたまま桜庭さんに運ばれているのだと気づいた時には、居間のソファに横たえられていた。覆い被さってくる桜庭さんに再びキスされ…。
 本格的に自分の身が危ないのを、俺はそこで真剣に気づいたのだった。