立ち読みコーナー
目次
242ページ
鬼瓦からこんにちは     7
あとがき          238
30ページ~
 低い声で名を呼ばれる。
「俺が、怖いか」
 あたりまえじゃないか。この状況で、怖いと感じないほうがどうかしている。
 泣きながら、歯の根もあわぬほど震えている姿が、喜んでいるように見えるというのか。
 そう言ってやりたいが、臆病者の俺にそんな度胸はない。答えられずに震えていると、まるで傷ついたかのように、ぎらぎら輝く男の瞳がわずかに陰ったように見えた。気のせいかもしれない。
「ひどくはしない。そう怖がるな」
 この時点でじゅうぶんひどいと思う。
 このままではやられてしまう。どうにかしないと。
 俺は必死に恐怖を抑え込み、口を開いた。
「あの、服を脱げって言いますが、離してくれないと、脱げない、です」
「そうだな」
 脚は男の脛で押さえつけられたままだが、両腕は解放された。
 いまだ。
 俺は渾身の力で殴りかかった。が、反撃は見越されていたようで、簡単に封じられ、ふたたび押さえ込まれてしまった。
「おまえの力では、俺にはかなわない。諦めておとなしく抱かれろ」
 男の顔が近づく。男とファーストキスなんて嫌だ。とっさに顔を横にそむけたが、顎を強くつかまれて戻され、くちづけられた。
「んんっ」
 左腕の拘束がなくなったので、男の身体を押しのけようと突っ張ったり叩いたりしたが、びくともしない。
 顎の骨が砕けるかというほどの力で無理やり下顎をさげられて、口を開かされる。そこに男の舌が入ってきて、のどの奥へ唾液を流し込まれた。気道が塞がれて窒息しそうになり、反射的に飲み込む。液体がのどから胃へと流れ落ち、とたんに身体の奥が熱くなった。
 アルコールを飲まされたような灼熱感。
「え……なに……?」
 唇を離され、俺は思わず呟いた。いま、なにを飲まされたんだ? 
「鬼の唾液には催淫作用がある。じき、気持ちよくなる」
「え……」
 ほんの短い説明を受けているそばから、じわじわと身体の奥に異変を感じていた。熱さとともにむず痒いような快感が沸き起こり、全身に広がっていく。
「なに、これ……」
 おののく俺の唇を、男の唇に塞がれた。また唾液をたっぷりと送り込まれ、飲み込まされる。