立ち読みコーナー
目次
242ページ
天狗の恋初め    ……7
あとがき      ……236
(141ページ〜)
「雪宥」
「……うん」
「俺はお前が欲しい。伴侶の精は俺に力を与えてくれるのだろうが、そんなことはどうでもいい。お前を抱きたい」
 ストレートに迫られて、雪宥はたじろいだ。
「俺を覚えていないのに、そう思うの?」
「忘却池から飛びでた瞬間、なにか大切なものを池に落としてきてしまった気がした。もう一度池に潜って取り戻してこようかと考えたくらいだ。だが、お前を見たとき、安堵した。俺はなにも失っていない。お前さえこの手に掴んでおけば、なにも問題はないと。どうだ、俺の考えは間違っているか」
 剛籟坊に肩を抱かれて、おとなしく身を任せる。
 安堵しているのは雪宥のほうだ。突然降って湧いた伴侶を、そう言って求めてくれるのは嬉しい。
 記憶はなくなっても、感情の欠片のようななにかしらが、剛籟坊の身に沁みついているのかもしれない。これから雪宥と過ごすうちに、少しずつでも二人のことを思い出してくれないだろうか。
「間違ってないよ。俺は剛籟坊のもので、剛籟坊がいないと生きていけないんだ。剛籟坊が池に落としたものは俺が持ってるから」
「雪宥、お前は本当に可愛い」
 剛籟坊の顔が近づいてきたと思ったら、唇を奪われていた。
 記憶喪失後に交わした、初めてのキスである。重なった唇は温かく、薄く開いていた口のなかに、遠慮もなく舌が入ってきた。
 雪宥は素直に受け入れ、舌を差しだして歓迎した。舌と舌を擦り合わせ、溢れる唾液を啜り合う。
 剛籟坊が唇を重ねたまま片腕で雪宥の腰を抱き、もう片方の手で胸元をまさぐってきた。単衣の上から乳首を探りだされ、布ごときゅっと摘まれる。
 乳頭から出たものが、布を濡らしたのがわかった。
「……んっ!」
 雪宥は唇をもぎ離し、身を捩った。
 剛籟坊も驚いたのか、乳首から指を離したものの、濡れて色の変わった布地を凝視し、雪宥が手で押さえて隠そうとするのを阻止している。
「これは……乳が出るのか」
「り、六花を産んだばかりだから……!」
「だが、あれはもう八つだろう。まだ吸わせていたのか」
「まさか! 六花は一歳くらいで……」
 そこで剛籟坊はぴんときたようだ。
「俺か」
 雪宥は視線を泳がせた。剛籟坊以外の誰がいるというのだ。