立ち読みコーナー
目次
290ページ
町工場にヒツジがいっぴき  ……7
あとがき          ……286
(198ページ〜)
(くそぅ。……こいつの身体をさわりたいな)
 真っ昼間に、しかもただ純粋によろこんでいるだけの相手に対して、むらむらしてくる自分は馬鹿だ。そんな自省はあるけれど、この青年に欲望をおぼえているのは事実だった。
(この前みたいなキスをして、そのうえあそこをいじってやったらどうなるだろう?)
 またも彼は他愛なく射精してしまうだろうか?   
 真っ赤な顔で恥ずかしがって、そのくせ男にキスされると、敏感に反応する無垢な身体……。
「……智康さん?」
 いつの間にかほどいたネクタイを手に持ったまま、その場に突っ立っていたらしい。怪訝な呼び声にハッとして、急いで自分の妄想を追い払う。
「ああ……その。ヤエも工場で働くんなら、作業服がいるかなって考えてた」
 思いつきの台詞だったが、遥季は顔を輝かせた。
「僕も着ていいんですか!?」
「もちろん。ただし、俺のしかここにはないから、ちょっと大きいかもしれないが」
 それからふたりは互いに背中を向けた姿勢で着替えを済ませた。別に申し合わせたと言うわけではないが、なんとなくそうなったのだ。
 スーツをハンガーにかけてから振り向くと、袖をまくるのに苦心している遥季の姿が目に入る。
「やってやるから、こっち向けよ」
「はい」と反転した青年を見下ろして、智康は思わずぶっと噴き出した。
「……可笑しいですよね」
 笑われたと思ったのか、遥季は情けなさそうな顔をするが、こちらの心情は可笑しがるどころではない。
(ちっくしょうめ。こりゃ、なんつっても反則だろが)
 遥季は智康が思っていたよりずっと細身であったようだ。指や顔が丸っこいから、そんなイメージはなかったのだが、思いのほかほっそりした肢体に実用本位の作業服を纏った様子は、なにやら妙に色っぽい。
「変じゃない。ただちょっとだけ、でかいかなと思っただけだ」
 袖をまくってやろうとすると、いきおい遥季の肌に触れる。そうしたら、ぴくっとちいさく震えるから、自制の糸はあっさりと切れてしまった。
「とも……っ?」
 智康は、キスをするのはこれで二度目。もちろん男とのに限ったことだが、今回のもむやみやたらと興奮するし、相手の反応に煽られる。
「ん……ふ……っ」
 だぼだぼの作業服に身を包んでいる青年は、背筋を強張らせているようだったが、嫌がってはいなかった。以前に『目を閉じて』と言ったことをおぼえていたのか、今度は最初からしっかり両目を閉ざしている。