立ち読みコーナー
目次
258ページ
金ニモマケズ、恋ニハカテズ  ……7
あとがき           ……250
(57ページ〜)
 思わず目を閉じたのが、いけなかった。
 舌そのものが生き物であるかのような激しさで、口内を蹂躙される。唇を強く吸われ、ついばまれ、再び噛みつくように深く口づけられた。
 逃げようにも、顔はしっかりと掴まれて身動きが取れない。
 さらに、親指を噛まされて口を閉じることができなくなり、傍若無人に振る舞う菅原の舌はさらに大胆になっていった。
「ん……、ぅん……っ、……んんっ、……ぁ……む、……ん、……はぁ……」
 次第に取り込まれていき、瀬木谷は甘い吐息を漏らしていた。腰が蕩けたようになり、愛撫のようなキスをしてくる菅原に身を任せる。
 目眩がした。
 キス一つでこれほど相手を蕩けさせることができるものなのかと驚き、溺れ、いとも簡単に流される。
 唇がこんなに感じているなんて、信じられなかった。どうかしていると思いながらも、抗うことができず、それどころか服従してしまう。
 ようやく嵐のようなキスが終わると、瀬木谷はゆっくりと目を開けた。飛び込んでくるのは、怒ったような菅原の顔だ。
「あ……」
 三人の中で一番常識的だったはずの男がこんなキスをするなんて信じられず、思考は止まったままだ。しかし、そんな悠長なことを言っている場合ではないと気がつく。
(こ、こいつマジだ……)
 さすがに悪ノリしすぎたかと思い、テーブルを見ると、いつの間にかジンの瓶は二本空になっていた。三本目はまだ開けたばかりだが、菅原のほうが速いペースだったことを考えると、かなり深酔いしているとわかる。
(飲ませ、すぎたか……?)
 少しは気持ちが楽になるかと思ったが、さすがに限度を超えていたかもしれない。危機感を抱き、後退りした。けれども、今さら気づいたところでもう遅い。
「一万くらい出してやるよ」
 スラックスのポケットから長財布を出した菅原は、一万円札を取り出してちゃぶ台の上に置いた。そのまま財布を投げて放り、続きとばかりに迫ってくる。
「ちょ……、……たん……ま。……も……しただろう。お、……落ち着け」
「金払うっつってんだろうが。一万ぶんたっぷりしてやる。観念しろ」