立ち読みコーナー
目次
226ページ
キリンな花嫁と子猫な花婿  ……7
あとがき          ……216
(127ページ〜)
「いい年して、って思うけど……今でも、電気を消して寝られない。雷も……暗いのも、怖いんだ。これまではキリンを抱いて、なんとかやり過ごしてたんだけど……穂高さんに迷惑、かけちゃ……った。ごめ、んなさい。おれ、情けな……ぃ」
 ポツリポツリと語る佐知の言葉を無言で聞いていた穂高は、さっきと同じように背中の真ん中を軽く叩く。
 言葉では形容し難い安堵感に、佐知は穂高の着ているパジャマの裾を握り締めた。
「不思議、だ」
「不思議?」
「穂高さん……、キリンに抱きついてるみたいに、ホッとする。これまで、キリンだけにしか情けないところ、見せられなかったのに。穂高さんには、もっとみっともない姿を見せちゃってるせい……かな。キリンと同じくらい、優しい……」
 今、自分の感じているものをどう言えばうまく伝えられるか、わからない。迷いながら、ポツリポツリと脈絡のない言葉を口にする。
 背中にある穂高の手に、グッと力が籠って……再び強く抱き込まれた。
「あまり、無防備になるな」
「ご、ごめんなさ……い。おれ、図々し……」
「そうじゃない。佐知は悪くない。どうも……言葉が下手で、ダメだな」
 穂高がなにを言いたいのか、鈍い佐知は察することができない。でも、変わらず背中にある手は優しくて……あたたかい。
 優しい、優しい感情が伝わってきて、どうしてだろう。泣きたいような、頼りない気分になる。
 現実と非現実の狭間にいるみたいで、なんとも不思議な空気が漂っていた。
 震える息を吐き出したところで、パッと電気が灯った。同時に、ドッと現実が押し寄せてくる。
「あ……っの、なんか、変なこと聞かせてごめんなさい。今のおれ、ちょっとおかしいから、忘れて」
 両親にまつわるあれこれは、穂高に聞かせるつもりのなかった話だ。
 暗闇と雷、佐知にとって心身を乱す二つのものが、正常な判断を奪っていたとしか思えない。
 消え入りたいような気分で、穂高のパジャマのボタンを見詰めた。