立ち読みコーナー
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野獣なラブリー 〜もふもふさせてやる〜  ……7
獣の将来設計図              ……195あとがき                 ……219
「なんで、おれにこんなこと……。トールなら、いくらでも相手がいるだろう?」
「その俺が求めているのは、おまえだ」
 とてつもなく傲慢な返事に、絶句した。
 求められて、光栄だろうと言わんばかりだ。
「や……ぃ、ってぇ」
 首筋に顔を伏せたトールは、琉火の肌を味わうかのようにガシガシと鋭い歯を食い込ませてくる。
 身体が動かない。まるで、見えない鎖でベッドに縛りつけられているみたいだ。
 ボタンを外すのも面倒なのか、強引にシャツを剥ぎ取られる。布の破れる音が聞こえ、「怪力がっ」と頬を歪ませた。
 まるで、砂漠をさ迷って渇き切った旅人が、ようやく水にありついたような性急さだ。飢えているのだと、乱雑な所作から伝わってくる。
 その『飢え』を、自分にぶつけてくる理由がどうしてもわからないのだが。
「おまえ、サイテー……ッ」
 苦し紛れに悪態をついた琉火に、トールは顔を上げることなく短く言い返してきた。
「ルカが悪い」
「な……っに? ぅ……んっ」
 どうして、琉火が悪いと?
 琉火には、トールを苛立たせている原因が自分にあるとは、どうしても思えない。
 聞き返そうにも、強引なキスに唇を塞がれてしまい、言葉を封じられる。
 絡みついてくる舌が、熱い。
 獣が、捕らえた獲物を貪り尽くそうとしているみたいだ。
 一番、タチが悪いのは……苦痛のみを与えられるわけではない、というところだ。
 トールのキスは、たまらなく心地いい。琉火自身も知らなかった快楽を、巧みに引きずり出す。
「ン……、ぁ」
 抗っていた手から、ふと力が抜けたことに気づいたのだろうか。琉火を押さえつけていたトールの手からも、少しだけ力が弱まる。
 首筋に顔を寄せてきたトールが、ペロリと舌を這わせた。血の流れを確かめるように、まるで匂いを楽しんでいるように……スンと鼻を鳴らして、肌を舐め回す。
「ッ、ッ……!」
 ゾクゾクと鳥肌が立った。舐め回す舌がくすぐったいのか、もっと別の感覚なのか、あやふやになる。
「匂いが強くなった。ルカも、欲情している」
「だ、誰が、欲じょ……なんか」
 快楽を得ているのだろうと決めつけられて、首を左右に振った。
 けれど、トールは我関せずといった調子で好き勝手に続けている。琉火が否定しても、鼻で笑うだけだ。
「素直に身を預けろ。そうすれば、もっと……よくなる」
 顔を上げることなくそう言い放ったトールは、琉火の膝のあいだに自分の足を入れて腿の内側を撫で上げた。
 ザワザワと背筋を悪寒に似たものが駆け上がり、グッと息を詰める。
 あの、ホテルで好き勝手された時よりはるかに丁寧な触れ方だ。我欲を押しつけるだけでなく、琉火も共に煽ろうとしている。
「おまえも俺のキス、触れるのも……嫌いではないだろう」
「ン」
 決めつけられて、否定しようと口を開きかけたところで唇を塞がれた。
 ねっとりと絡みついてくる熱い舌が、琉火から思考力を奪っていく。
 頭の中が……ぼんやりと霞む。熱っぽい舌も、触れてくる手も、認めるのは悔しいけれど気持ちいい。
「っくしょ、なんで……っ」
 どうして、抵抗できないのだろう。
 無遠慮に脚を開かされ、膝を掴む手を振り払おうと伸ばした手を掴まれ……動きを止めてしまう。
 琉火を見下ろしてくるアイスブルーの瞳は艶っぽく潤み、冷たい色とは裏腹に熱を帯びていた。
 この瞳で見つめられたら、動けない。
 執着の意味はわからないのに、トールがもどかしそうなほど自分を求めていることが伝わってくる。
「トール……?」
 ポツリと名前を呼んだ琉火に、トールはなぜか今にも泣き出しそうな頼りない表情を浮かべた。
 けれど、それも一瞬で。目を閉じて頭を振ったトールは、琉火の膝を押し上げて身体を重ねてきた。
「ぁ! ……ッッ、ぅ」
 これまで身に受けたことのない苦痛と、それを凌ぐ麻薬のような快楽に翻弄された琉火は、縋りついたトールの肩にせめてもの意趣返しとして爪を食い込ませた。
 追加の撮りがあったとしても、もう……知るものか。