立ち読みコーナー
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恋するわんこはお年頃  ……7
あとがき        ……254
「――どういうこと」
 一段と声が低い。こんなに怒っている玲を見るのは初めてだった。
「俺に女の子ともつきあってみろって言うの」
「…………」
「ねえ。わかってんの? 俺が好きなのは裕貴だって言ってんじゃん。なのに、なんでその裕貴が俺に女の子とつきあえとか言うの」
「…………」
 玲の声が震えている。
 言ってはいけないことを言ったのだと、裕貴はようやく悟る。海に行って女の子たちと遊んだら、玲も楽しいかもしれないよ――それは玲に告白された自分が、絶対に言ってはいけないことだったのだ。それこそ、玲を拒絶する覚悟がなければ……。
「……ねえ。なんで裕貴は俺とキスしたの?」
「…………」
 それは……気持ちよかったから。玲に求められて、嫌じゃなかったから――。
「俺がしたがったからでしょ。俺がしたがったから……裕貴は優しいから拒めなかったんでしょ」
「ち、が……」
 優しいから拒めなかったのではない。そうではない。玲の抱擁やキスが気持ち悪ければ、いつだって「イヤだ」と言えた。言えなかったのは――気持ちがよかったからだ。遠慮がちに抱き寄せられるのも、想いあふれたようにきつく抱かれるのも、唇を合わせるだけのキスも、舌を絡める深いキスも。
 どうしようもないほどドキドキして、まずいほど、ぼうっとした。胸がいっぱいで、でもそれは嫌なものではなくて、甘くて、切なくて……。だから嫌だと言えなかった。
「ちがう……優しいとか、じゃなくて……」
 なんとか自分の気持ちを伝えようとしてみる。が、
「俺は、ちがうからね」
 きつい口調でさえぎられた。
「俺はキスしたくてキスしてたんじゃない。……ホントは……もっといやらしいことがしたくて……裕貴が欲しくて……でも、いきなりだったら怖がられるかもしれないし、裕貴にイヤがられるかもしれない。だから、我慢してたんだ、キスだけで。本当は……!」