立ち読みコーナー
目次
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妖精メイド  ……7
あとがき   ……239
(これが終わったら……)
 夜のお務めが待っている。
 覚悟を決めてきたつもりだが、やはり怖かった。
(でも、一柳ならひどいことはしないと思うし……)
 きっとやさしくしてくれる。いや、そうでなくても、仕事だから勿論どんなことにも耐えるし、どんなことでもするつもりだった。
「終わったか?」
 そんなことを考えながら台拭きで流し台の上を拭いていると、ふいに声をかけられ、幸歩は飛び上がりそうになってしまった。
「えっ、ええ」
「ほどほどでいいからな。終わったら、家まで送ってやるから」
「え……っ?」
 幸歩は耳を疑った。
(家まで送るって……)
 じゃあ、今夜は?
(今夜のお務めは……?)
 一柳は続ける。
「ただ送るだけだから、心配するなよ? 何もしないから……って言っても信じられないかもしれないが……」
(何も、しない……?)
 一柳は、幸歩に何もしないまま、家へ帰そうとしているのか。
 幸歩はその言葉に、愕然と立ちつくした。
 一柳が、そんな幸歩を怪訝そうな顔で覗き込んできた。
「終わったんなら、着替えてこいよ。……榊?」
「あ、はい……!」
 幸歩はできるだけ平静を装い、控え室に飛び込んだ。
 一柳は、ただのメイドではなく、スペシャルサービス可能なメイドを希望していたはずだった。料金は、普通のメイドの数倍にもなる。それだけの高額を支払ったのは、当然夜の相手をさせるためだ。
(なのに、何もしないなんて)
 なぜ――なとど問うまでもなく、その理由はわかりきっていた。
 相手が幸歩だったからだ。
 幸歩の立場に同情し、可哀想に思ってチェンジまではしなかっただけで、夜の相手としては対象外だったのだ。