立ち読みコーナー
目次
290ページ
月の欠片          ……7
雲の狭間――過去の出会い――……99
天使の梯子         ……195
あとがき          ……286
(9ページ)
 たった一枚の薄い毛布がやたらに重く感じられた。
 毛布だけじゃなく、自分の手足ですら重たくて、持ち上げることができなかった。腕のかわりに、似た大きさの丸太を胴体につけられたのではと思うほどだ。重たいうえに、指先が痺(しび)れて、感覚がない。
 おまけに寝返りを打とうとしても身体が動かない。
「……ん」
 ちいさな声が唇から零(こぼ)れた。
 ――ここは、何処(どこ)だ?
 橋本裕真(はしもとゆうま)はまばたきをくり返し、周囲を見渡す。
 見慣れない室内。寝心地の違うベッド。見えない手で上から押さえつけられているかのように、全身がこわばっている。自分の身体に管(くだ)がつながれ、よくわからない機器と接続されていた。テレビドラマかなにかで、見たことのある光景だ。
 ――病院?
 視線を巡らせると、横たわる裕真の脇腹に頭を押しつけて、ひとりの男が眠っていた。
 男は、ベッドの横に丸い椅子を置いて座り、上半身をベッドにあずけている。どうしてか裕真の腹へと片手を添えて眠るその姿は、母犬の腹にすがる子犬みたいにけなげに見えた。
 形のいい後頭部。自然な感じに整えられた少しだけ長めの黒い髪。
「誰?」
 しぼりだすような声だった。使い忘れて錆(さ)びてしまったみたいな声と、たどたどしい発音に違和感を覚える。なんでこんなかすれた声しか出てこないのだろう。
 裕真の声に、男が顔を上げる。静かに頭をもたげ、裕真と視線を合わせると、男の切れ長の綺麗(きれい)な目が驚いたように見開かれる。
「裕真?」
 見とれるくらい端整な顔立ちの男だ。すっととおった鼻筋と形の整った薄い唇。切りつけてくるような力を放つ眸(め)。
 年齢は――おそらく二十歳前後。
「きみ、誰?」
 二度目の誰何(すいか)の台詞を零した途端、男の視線が狼狽(うろた)えるように揺らいだ。男の真っ黒な眸に水滴が貼りつき、滲(にじ)んだ涙がつーっとひと筋、目の縁から転がり落ちていく。
 たった一滴の涙は、突然のスコール並みに、裕真の気持ちを動揺させた。
 男の濡れた眸が、裕真を見つめている。
「裕真、これ夢じゃないよね」
 記憶にない部屋で目覚め、違う重力を持つ惑星に来たのではと疑いたくなるほどに身体の重さを感じ、見知らぬ美貌の男にひとめで泣かれる。どういうことだ?
「夢、かもな」
 だからそう応じた。
 現実感はどこにもなく、どうしてこうなったのか裕真にはさっぱりわからない。
 男が裕真の枕元にあったブザーに手をのばす。壁からコードでつながれたブザーのボタンを押してから、男は裕真の頬(ほお)にそっと触れた。おそるおそるというように触れてくる男の指先はやけに冷たく、震えていた。