立ち読みコーナー
目次
269ページ
最(強)凶の男
最(強)凶のアムール
最(強)凶の出会い
 あとがき
 甲斐が情けないくらいに縋ってくる。誰をも振り向かせるほどのいい男が、たかが男一人にここまでみっともないのも考えものだ。
「今回のストーカーの件は悪かった。俺も智明の気持ちを考えなかったから。でも、俺と別居してから、お前にストーカーが三人いたのを、俺は隠密に退治してやってたんだぞ」
 そんな事実、今さら知りたくない。知ったところで気分が悪くなるだけだ。縋る甲斐の手を冷たく振り払う。
「やっぱり林の意見を取り入れるべきじゃなかったんだ……」
 いつの間にか甲斐の怒りは林に向かっているようだった。
「俺がアパートに放火して全焼させれば、智明が戻ってくるって言ったのに、林はご近所に迷惑がかかるって言って反対したんだ。ああ、ストーカーなんか使わないで、やっぱりあのアパートに火をつければよかったんだ」
 本気でそれを口にする甲斐の頭をかち割って、中味を大学にでもサンプルとして提供したい気分だ。非常識の塊の脳だと言えば、何かの研究の対象になるかもしれない。それくらいしか奴には人類に貢献することはできないであろう。しかしそれをしないのはひとえに智明が常識人であるからだ。
 智明は己の怒りをなんとか抑え、玄関に勢いよく向かった。これ以上ここにいたら脳(のう)溢(いっ)血(けつ)か何かで倒れそうだ。そんな智明の後ろ姿をのん気な声が引き止める。
「あ、アパートには帰れないぞ」
 そんな言葉は無視だ。
「昨夜、すぐに甲斐不動産の下請け会社に連絡して、今朝、休日出勤扱いであのアパートを取り壊してもらったからな」
 な、なんですと〜っ!
 智明は己の感情とは裏腹に甲斐に振り返らざるを得なかった。

▽電子書籍版はこちら